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薬指は離れない

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※臨♀静
※来神時代
※静雄女体化




俺は下駄箱に入っていた手紙の差出人に会うべく裏庭に来ていた。

「…ていうか、今時ラブレターなんて粋なことするねえ──シズちゃん?」
「アレ、見たのか」
「人の下駄箱にガムテープで吊り下げといてよく言うよ」


朝、自分の下駄箱を見ると手紙があった。
下駄箱の中にあったとかじゃなくて、外にまんまテープで貼られてた。
オマケに紙には“果たし状”の文字がでっかく書かれていて、俺以外の奴らにも丸見え。

これは…と思い、ベリッと剥がして中身を見れば、これまた大きな字で「嫌いだ」と書かれていた。
差出人が誰だかわかった俺はその人物を探して、この裏庭に来たんだ。そして彼女を見つけた。

「てか、寒っ」

まだ五月だから夏には早く、少し肌寒い春の風が吹いて俺は体をぶるりと震わせた。

「そんな薄着してるからだろ。…お前、露出魔なのか?」
「いや違うから。ていうか、君を探してたんだよ」

あの手紙はなに?そう聞くとシズちゃんは静かに花壇の前にしゃがみこんだ。
だけど黙ったまま。話す気がないのか、ずっと花の回りの雑草を指先で除けている。

「………」

シズちゃんが黙ったままだから、俺も黙って彼女を見つめていた。
それが何秒経っただろう。漸く口を開いてくれたシズちゃん。

「……お前、今日誕生日だろ」

彼女の言葉に少なからず驚いた俺はは?と聞き返してしまった。
すると今度は声を荒げて、お前の誕生日!と叫び返された。

「うん…今日は五月四日で確かに俺の誕生日だね。もしかして、シズちゃん祝ってくれるの?」
「…………」

無言の肯定に俺は目を輝かせた。

シズちゃんが祝ってくれるって、これ、夢?
気づけ、振り向け、俺の思いよ届け!といつもお祈りしてたのが叶ったの?

そう考えているとシズちゃんがぽつりぽつりと話し始める。

「…昨日、新羅が教えてくれたんだ」

何を、と聞き返す前に両手がシズちゃんによって合わせられた。
何をするのだろうとよくわからないがシズちゃんの好きにさせた。

いただきますの手にされたと思ったら、今度は中指だけを中に仕舞われて、まるで陰陽師の印を結ぶような形にさせられた。

「親指、離してみろ」

そう言われてくっつけていた親指を離した。…意味がわからない。
これは?と問いかけるとシズちゃんは答えた。

「親とはいつか離れてしまう」

それを聞いて思い出した。
昔、指の数え方は家族だと教えられたことがあるな。
今のこの行動はそれにも関係があるのだろう。

確かに、親はいつか離れていくね。

じゃあ…と今度は人差し指を離してみた。そしてまたこれは?と問いかける。

「兄弟もいつか離れる時がくる」

そっか、人差し指が兄弟か。
じゃあ小指は子供かな?と思いながら小指も離す。

「子供もいつか離れていく」

子供も大きくなったら自立したり、結婚したりで離れてくもんね。納得。
…それなら薬指はなんだ?あれ、薬指ってなんだっけ?そう考えながら薬指を離そうとして、気づいた。

「あれ…離れない」

他の指は中指を折ってくつけたままでも離せたのに、薬指を離そうとすると中指が離れてしまう。
何度やっても中指が離れて上手くいかない。そんな俺にシズちゃんがその薬指の意味を教える。

「親や兄弟や子供は離れていくけど、夫婦や恋人は絶対に離れない」

俺はその言葉に妙に納得してしまった。
そうだ…薬指は恋人に結婚指輪を嵌める時にも使われる指だ。
夫婦や恋人、結婚の誓いにもあるように離れない、ということか。
そう解釈して口許に笑みを浮かべて彼女を見る。


そういうことなら──この薬指は俺たちってことだね。


「でしょ?」

そう聞き返してシズちゃんを見つめていれば、案の定顔を真っ赤にしたシズちゃんがいて俺はゆっくりと彼女を抱きしめた。



薬指は離れない
作品名:薬指は離れない 作家名:煉@切れ痔