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にっしー君
にっしー君
novelistID. 20200
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はさみを持っておいで

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「……みっ、見た?」

柄にもなく顔を赤くして、すごい勢いで私から包みを取り上げた。
いつもひやりとしている青い氷の瞳が、動揺を隠しきれずにいる。

「綺麗ね、それ」
「え、あ……うん。」

バレッタだった。着けたことはないけれど、知ってる。見たこともない緑色の宝石を使ったもので、なめらかで美しかった。楕円形のバレッタに合うように薄くカットされただけの簡素な造りだけど、きっと安くはないだろう。リンクの手の中でつるつるした表面が光った。

「誰かにあげるんでしょ」
「…まあ」
「誰に?」
「そ、それは言えない!」
「じゃあ…私の知り合いの中にいる?」
「…多分いない」

分かってはいたけれど、自分宛ではなかった。落胆は顔には出さない。そもそも出したところで彼には分かるまい。鈍感さは子どもたちを含めても村一番だ。

「そっかー、つまんないの。じゃあどんな人なの?」
「えっ…」
「綺麗?かわいい?」
「どっちかと言うと、綺麗…かな?」
「へーー!」
「モイさんには言うなよ!いや、誰にも言うなよ!い、イリアだから話したんだからな!」
「はいはい、言いません言いません。」

表情も口数も少ないリンクがここまで取り乱すとは相当好きな証拠だろう。おもしろくてからかったけれど、虚しさが残った。
どうして私じゃ駄目なんだろう。ずっと側にいたのは私なのに。
リンクは本当に村の誰にでも親切で、私にもとても優しくしてくれる。だけど贈り物なんて貰ったことはない。私が知らない人、ということは、きっと城下の人だろう。最近やたらエポナに乗って城下町へ仕事もないのに行くのだ。

「リンクにしてはいいセンスしてるね、このバレッタ」
「ばれった…?ああ、この髪飾り、そんな名前なんだ」
「…知らずに買ってたのね。」
「俺が知ってるわけないだろ。あの人、たしかこんな形の飾りをつけてたから…それで買ったんだ。」
「ふぅん…。」
「あと、緑色が好きって言ってて。小間物屋で見かけたときにコレだ!って思ってさ。」

さっきまで恥ずかしがっていたというのに、いきなり饒舌になったリンクは、いきいきとしている。気に入ってくれなかったらどうしようなんて、よく私に相談できるわね。
緑のバレッタが似合う城下町の綺麗な女の子か。私とは見事に正反対だ。きっと馬の世話をしたことも、山羊の乳を搾ったことも、釣りをしたこともないような人だろう。そんな子と、田舎者代表みたいなリンクが釣り合うとは少し思えない。

…いや、でも、どうだろう。

リンクはこんな田舎に住んでるとは思えない垢抜けた綺麗な顔をしてる。エポナに乗って森を駆ければピアスがきらりと光って、一対一で話す時の低い声は冬の地を這う冷たい空気みたいに澄んでいる。そういえば少し前、城下に行く度に女の子三人ほどにつきまとわれると愚痴をこぼしていたことを思い出した。
近くに居すぎて見落としていたけれど、リンクは女の子に好かれるような要素でいっぱいなんだ。しかも実際困るくらいに好かれている。

「じゃっリンク、私そろそろ帰るね。」
「えっ、チーズ入れたらもうスープできるんだけど…」
「明日早いの。ほら、山羊が出産近いからなるべく交代で見てるのよ」
「あ…、言ってたね」

しょうがないか、納得したらしいリンクに少し申し訳ないが、これは嘘。たしかに出産を控えた山羊はいる。その子は他の山羊より身体が小さく、どちらかと言えば虚弱で、出産がうまくいくという保証ができない。だから交代で様子をうかがっているのだけれど、私の係は明後日。よく家を空けるリンクはそんなこと知らないから疑いもしない。

(ざまーみろっ)

心の中であかんべえをした。

でも、おやすみイリアって、その声の優しさに、挫けそうになってしまった。








あたしのものになってよ。

もうずっと好きなのよ。







弓を引く大きな手も、木漏れ日みたいな金色の髪も、静かに気高い瞳も、全部全部小さいときから一度も目を離さず見つめてきたのよ。
なのにどうして知らない街の知らない人に、恋なんてするの。あのはにかむような笑顔を、いつか私のためだけに向けてくれるのだと信じていたのに。


でも……変ね。

「イリアだから」ということばに、私に対する厚い信頼を見て、すごく嬉しくなってしまう。
恋愛感情を抜けば、彼の中で少なくとも私は一番だと分かるから。

だからいいや。

こんな変な顔を見られただけでも幸せよ。ただ少し悔しいってだけで、恨んだりするつもりはない。私だって逃げてた。気持ちを伝えることから逃げてた。リンクはやっぱり逃げないのね。そういうところが本当に好き。

バレッタをあげて、つけてあげるのかな。似合うよって言うのかな。馬鹿みたいに素直なリンクのことだから、あからさまに顔を赤くしそうね。

想像したらおかしくなって、気がついたら私は、泣きながら笑っていた。