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からっぽの空を見上げて

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「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。
無責任で陳腐なその言葉に嫌悪を覚えたのです。
 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。
それは誇り高く空を舞う彼を地に堕とす言葉。
 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。
その言葉の滑稽さになぜ彼らは気づかないのでしょう。
 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。



 ほんの一瞬。白刃を閃かせたかと思ったら俺の喉元にカタナを突きつけた彼の真っ直ぐ過ぎる漆黒の視線に。俺は殺し合いの真っ最中であるにも関わらず感嘆の息を漏らしそうになる。

___あぁ。

___あぁ、なんて。美しいんだろう。

 彼の小さな顔には相変わらず何の感情もありはしなかったけれど。闇色の大きめの瞳は、決して揺らぐことのない強い光を湛えていた。どれだけ俺が圧倒的な力で組み敷いても、どれだけ彼の仲間が俺たちの手によって散っていっても。決して消えることなどない、強すぎる意志の光。

 それはきっと、俺にとっては歓迎できるものではないのかもしれない。どんなに圧倒しても、決して屈することのない不屈の意志は俺たちにしてみればやっかいなことこの上ない。

でも。それでも。「美しい」と思ってしまう。感嘆してしまう。

 カタナを突きつけられたのと同時に彼の額に突きつけていた愛銃を手の中で弄びながら両手を上へ。いわゆる降参のポーズだ。彼は表情こそ変えなかったが、俺の突然の降参に戸惑っているようで、俺の大好きなその瞳に僅かだが訝しげな色が滲んだ。

 「今日のところは降参、ってことにしといてあげるよ。その瞳に免じてね。」
ウィンクを1つ送りながら上機嫌にそういった俺に彼は、やはり意味がわからないとでも言いたげな視線を向けた。


        *        *        *
 

それから。暫くもしないままに彼は、彼の天敵であるはずの俺の手にかかるでもなく、俺の知らないところでその命を落としていた。

「我が祖国のために。」
最期の最期までそんな言葉を叫び続けた自国の兵器たちと共に。

その知らせを聞いたとき俺は、零のあの美しく真っ直ぐな瞳を思い出した。
「あーぁ・・・。」
大きな溜息が1つこぼれ落ちる。
「・・・最悪。」
実に不愉快だった。「誰かのために。」なんて言葉に、愛する彼の美しい瞳を汚されたようで。
「大嫌いだよ・・・。零。」
(そんな言葉と共に散った君は。)

ぽつりと、掠れた声で呟いた言葉は誰にも届くことはなく。頬を撫でる少し冷たい風に攫われていった。それと同時に熱い何かが俺の目から溢れ、風に当てられてすっかり冷えた頬を伝った気がした。




 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。
これからも好きになることはないでしょう。
 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。
それは誇り高く空を舞う彼を地に堕とした言葉。
 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。
あぁ。彼の口にした「誰か」さん。彼を返してください。
 「誰かのために。」という言葉が大嫌いです。


  
「空っぽの空を見上げて」 
    (あぁ、なんてつまらないんだろう。)
     (君のいない空の味気なさといったら・・・。)  
      (まあ、つまりは。会いたいんだ、もう一度、君に。)