一目ぼれの奇跡
「知ってるか?一目惚れして結婚した夫婦って離れにくいんだぜ。」
「…別に私は一目惚れじゃないですけど。」
「うげ。」
何処のTVでそんな情報を得たのか…。
というか抑、夫婦じゃないし。
私達は大体にして同性なのだから結婚も糞も出来ない。
ただ、付き合っていて同居しているってだけなのに。
何を自惚れているのか。
もう24歳になってしまった。
付き合って既に10年。
もし片方が女だったら絶対結婚してただろうに。
同性ってだけで規制されてしまうこの国はどうも好きになれない。
中学2年の頃父の転勤で晴矢が通う中学校に転校したのが私達の出会いだった。
実際話しはじめたのは部活が一緒だったからというだけで。
その金色の瞳と真っ赤な髪に吸い込まれてしまいそうで怖かった。
君と居るのが怖かった。
でも、好きだった。
明るくて誰にでも分け隔てなく接する君の事が。
私が同性愛者だってのが知られたくなかった。
嫌われると思ったから。
だから告白された時驚いた。
直ぐには、うんと言えなかった。
言いたかったけど喉がうっと詰まった。
私なんかが彼の側にいていいのだろうか。
私が彼といたら私は日々怯えていかなければならないような気がしてならなかった。
すると晴矢は私の両肩を掴んで、俺は好きだからと言った。
彼だったら別にこの身を捧げても吸い込まれてもいいかなと思った。
そして私達の交際がスタートしたのだが勿論周りには隠した。
"親友"と言えば大抵の人間は騙せた。
だが、良心がその度痛んだ。
そんな時ヒロトと緑川に会った。
彼等もまた同性愛者だった。
荷が軽くなったのかもしれない。
以前よりも笑い合えるようになった。
とまぁ回想に浸っていると晴矢がまだぶつくさぼやいていた。
「何だ五月蝿いな。」
「だってさぁ、俺だけ風介を想ってるみてーじゃん。」
嫉妬かとつい口元が緩んでしまう。
愛されてるなとしみじみ身に感じる。
拗ねてる晴矢の頬をつまんで、私の方が君を愛してるよと言ってやった。
すると、私の手を払って抱き着いてきた。
「ふへへ、俺の方が愛してるっつーの。」
だから自惚れるなと言いたかったが敢えて言わなかった。
「一目惚れ…ねぇ。」
「んー?」
「私もそうなのかな…。」
「マジかよ!!!」
「良く分かんないや。」
「えー。ま、でも俺達は別れる訳ねーから大丈夫。」
その自信は何処から湧いて来るのかと呆れてしまう。
でもお互い一目惚れだよ、多分。
一目惚れの奇跡ってあるんだな。
「緑川って可愛いよな。」
「む。可愛くなくて悪かったな。」
「あんたは綺麗なのか可愛いなのかよく分かんないや。」
「とんだ褒め言葉ですねー。」
「でも俺にとっちゃあドストライク!!」
「改めて言われると恥ずかしい。」
「そんなあんたも好きだ!!!」