臨也さんハピパ!
あの人がこういう行事を好きなのか、どうでもいいのかなんて解らない。
それでも僕は、僕の出来る精一杯でお祝いしようと思う。
「こんなも、ん?」
デコレーション用の苺を載せて、一応完成したバースデーケーキ。
見た目は少しいびつになってしまったけれど、味は市販された物だし、苺は苺で美味しかったし、味には問題ないと思う。
もう少しクリームをむらなく塗れば良かったとか、不格好に切った苺が可哀相とは思ったが、今更だと諦める。
このケーキの形にするまでにかかった時間と出来た失敗作達に比べたら紛れも無いケーキなのだ。
「うん、後は臨也さんに連絡をするだけ・・・」
着けていたエプロンを外しながら、携帯を取りにキッチンからパソコンの前へと向かう。
(変に緊張してる・・・)
いつもなら躊躇い無く押せるボタンが、今日に限って指が止まる。
少し打っては、クリアボタンを押してしまって、これでは埒外が開かないと電話番号をおしてしまった。
心臓が急激に脈打ち、指先が冷えていくのが解る。
「あぁぁぁ!!!!」
一分前の自分、ちょっと戻ってきて。どうして電話番号を押したんだ。
これでは、直接喋らなければいけないじゃないか。
携帯電話を両手で握りしめて唸り声を上げていると、3コール目で音が切れ、臨也の声が帝人の耳に入った。
『帝人君?』
「あぁぁはぃぃ!!」
あまりの緊張のため、声がうわずって変な奇声混じりになってしまった。
恥ずかしくて今度は体中が暑くなる。携帯を握る手に汗が滲む。
『何?どうしたの?』
「え、えっと・・・その、あの・・・・」
『うん?』
(もうこうなったらやけくそだっ!!なるようになれ自分!)
帝人は携帯を持っていない手で拳をぎゅっと作ると、叫ぶように思いの丈をぶつける。
「臨也さん!きょ、今日!僕と一緒に過ごしてくれませんか!」
一拍の沈黙。それが帝人にとってはとても長く感じた。そして、漸く臨也の声が帝人の鼓膜を揺さぶる。
『・・・帝人君から祝ってもらえるって思って良いの?』
「あ、は、はぃ・・・」
尻つぼみになる言葉。帝人は恥ずかしくて恥ずかしくて溜らなかった。
その時、玄関のチャイム音が響く。滅多に響くことのないチャイム音に帝人の肩が跳ねた。
『帝人君からそう言ってもらえて、俺、幸せすぎるんだけど・・・ねぇ、帝人君開けてくれない?』
携帯から聞こえた言葉に、帝人の身体は飛び跳ねて鍵を開け、勢いよく扉を開いた。
すると、目の前には携帯を耳に押し当てたままの臨也の姿。
『「まさか、帝人君から言ってもらえるなんて思って無くてさ。俺の誕生日プレゼントを自分からもらいに来ちゃった」』
携帯から聞こえる声と、目の前の臨也の口から同じ言葉が紡がれる。
臨也は携帯の電源を切ると、その携帯をポケットの中へと仕舞った。
帝人はぎゅっと口を結ぶとそんな臨也に抱きつき、顔をその胸に埋める。
「お誕生日、おめでとうございます」
くぐもった帝人の言葉に臨也は顔をほころばせて、その華奢な背中を抱きしめる。
「うん、ありがとう」