水鏡の中
水鏡に映った虚像のようだ、と、一乗寺賢は彼らのことを評した。
ほんものと同じに見えるのに、それは水の透明度に左右されてはっきり見えるときとそうでないときがあるし、ちょっと風でも吹いて水面が揺れれば、途端に画像はぶれてしまう。
それに、何より。覗き込むには下を向くしかなくて、気を抜けばすぐにでも頭から落ちてしまいそうになるあたりが。
そして、それでも、覗き込まずにはいられない、不思議で、綺麗な在り方が。
「ヒカリちゃん」
呼べば、いつでも笑顔で振り向いてくれる。「どうかしたの? 大輔くん」と言う声は、いつもやさしくて、綺麗で、神秘的で。
いつでも、変わらない。
「タケル」
何かの折にそう声を掛ければ、いつだって、穏やかな顔が、かえりみる。「なに? 大輔くん」と言う声は、どんな時だって、変わらない。
先輩たちの、話を聞いた。
彼らの持っていた、自分たちが受け継いだ、紋章の話を聞いた。
勇気が、友情が、愛情が、知識が、純真が、誠実が。受け継がれていくことは、とても嬉しいと笑っていた。自分たちが見つけた大切なものが続いていくのはすごいことだと、誇らしげに告げてくれた。
その中で、変わらなかったふたつの紋章。
今でも、同じふたりの中で、輝く希望と光。
彼らは、本当に希望の光だったのだと、ふたりのお兄さんがこっそり教えてくれた。
どんなに絶望的な状況になっても、彼らの中から失われることはなかった力なのだと、教えてくれた。
「オレたちが、もうどうにも出来ねえって諦めたとき、真っ先に立ち向かっていったのが、あいつらだったんだ。一番、小さかったのにな。オレが、守るんだって思ってたんだけどな」
そう言って、苦笑していた。だから、彼らはやっぱり、希望の光なのだと。
変わらず輝き続けるふたりは、今は、自分たちと共にいて。同じ目的に向かって、すぐ隣を走っていて。
大好きな女の子。気に喰わないけど、頼りにはなる友達。大切な仲間。
いろんな名前を、彼らにつけることは出来るけど。たくさんの経験を、一緒に積んできたと言えるけど。
「なあ、本宮。僕にはやっぱり……あのふたりのことが、よく解らない」
少しだけ、固い顔で言った一乗寺の言葉が、何となく、頭から離れない。
「大丈夫だって! あいつらだって、じき、お前を仲間だって認めてくれるって!!」
きっと、過去のことからくる不安感が、そんな言葉を言わせたんだって、そう思っていたけど。
──まるで、水鏡に映った虚像みたいで……掴み所がないんだ。のみ込まれてしまいそうで……
どうしてだろう。
湖の畔で、水面を覗き込んだまま、
立ち尽くしている、自分のビジョンが、消えてくれない。