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【APH】ないしょごと。【ルーギル】

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 トントントン、と階段からの足音が聞こえ、小鳥はふるりと羽根を震わせる。自室で何かを書いていた主人が戻って来たのだろう。
 主人、とは言うが、あの銀髪の青年を本当にそう呼べるかは定かではない。
 エサは貰っているし、室内にも入れてもらっている。けれどペットとして飼われているわけではないし、こちらもそのつもりはない。
 気に入っているから傍に居る、傍に置いている、というのが正しい状況なのだろう。
 小鳥の止まり木があるリビングには、今、弟のように彼が可愛がっている青年がいる。先ほどまで机の上の書類と睨めっこしていたのだが、疲れてしまったらしくうたた寝をしている。
 静かな気配を察したのか、いつも騒がしいはずの青年はかちゃり、とあまり音を立てないようにしながらそう、っとリビングへと入ってくる。
 そのまま足音を立てないように眠る青年の傍まで来ると、目の前でひらひらと手を振ってみせ、反応がないのを確かめている。
 確かめるくらいならば、肩を揺さぶったり、声をかけたりすれば良いと思うのだが、青年は疲れている事が多い。眠っているのならばそのまま眠らせてやろう、という気遣いなのだろう。
 寝ている事を確認した後、主人は再びそろりとリビングを出て行き、今度はタオルケットを手に戻ってくる。
 そして、器用にも座ったまま眠っている青年の体を支えながら、そう、っとソファへ横たえると、冷えないように、とタオルケットを青年にかけてやる。
 しばらく満足そうに青年の寝顔を眺めていた主人は、ソファの背中越しに手を伸ばし、固められた髪をくしゃりと乱すと、覗き込むように体を折って、青年の顔にキスを落とす。
 額に、瞼に、鼻に──唇に。
 ほんの数秒の触れ合いを終え、身を起こした主人と目が合う。すると、ぱちりとウィンクをして、人差し指を口に押し当てる。
 内緒な、と悪戯っぽく笑ってみせた主人にすいと腕を伸ばされ、小鳥はぱたぱたと羽ばたいてそこへ移動する。
 ルツが良く眠れるように、散歩に行こう。そう言って主人は笑って小鳥の小さな額にもキスをする。
 主人が靴を履くのを肩で待ちながら、小鳥は思う。
 なぜ、好きと言わないのか。なぜ、起きている時にしないのか。
 好きなら好きと言わなければ分からないし、起きている時に行動しなければ好きだと伝わらないだろう。
 彼らのことを人間、と言っても良いのかは分からないが、本能に従えないというのは難しいことなんだな、と小鳥はこんなシーンに出逢う度、思うのだ。






 兄さん、と主人が呼び慕う男の足音が部屋から遠ざかると、そろり、と主人は目を開けた。
 うたた寝しかかっていたのは本当だが、実は最初から寝てなどいないことを犬たちは良く知っている。
 いつだったか、本気でうたた寝してしまった時だ。今と同じように寝かしつけられ、キスをされ、どこの時点かはわからないが起きていたらしい主人が、兄が出て行った後に顔を赤くして呻いていたのを犬たちは鮮明に覚えている。
 それ以来、何度か同じような状況になり、その度にあの青年がああいう行動に出るため、なんとなく主人は狸寝入りしてしまうらしい。
 嘘のつけない性格だと思っていたが、そうでもないらしい。最初から同じ場所に居て見ていなければ、寝ているかいないかなどわからないだろう。
 ただ、主人の兄は体に触れている。体への力の入り具合などで気がつきそうなものだ、とも思うのだ。
 だから本当は、起きているのだと気付いていて、気付かれているのだと分かっていて、先ほどのようなことをするのかもしれない、とも思ったりもする。
 すべては予測でしかないし、気付いていようがいまいが、犬たちには関係のない話だ。
 ただ、気付いているのだとすれば相当厄介な話、なのだろうが。
 人間、というのも面倒くさい物だ、と思いつつ、尻尾を振りながら主人の元へ近づいて行けば、のそりと起き上がった主人に三匹とも頭を撫でられる。
 わん! と嘘を咎めるようにわざと鳴いてみせれば、くすりと笑った主人は、秘密だ。と言って、三匹に口止め料代わりのおやつを差し出す。
 知っていようがいまいが、これが無くならないのならいいか、と三匹は思う。
 どちらにせよ、二人の仲がいい事だけは変わり様のない事実なのだから。