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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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pure Gold

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 見慣れた暁の蒼は雲の向こうへ隠れたように掻き消え、代わりに現れる黄昏の金。


 背筋を伝う寒さは、けっしてそこに夜を感じたからでは、ない。



「―――カイト」



 幻の紅炎を纏い、ふわりと浮かび上がる幼い顔を見上げて、桐山ライカは茫然としたように呟いた。


 その存在を形づくる法定式を吸い取られ、粒子となって散る魔物の残り滓をまるで身の飾りとまとわりつかせながら、ライカを見下ろす少年の顔に、表情はない。

 常とは違う、静謐に過ぎるその姿は、どこまでも大人びたようであり、また―――狂おしいまでに幼くも、ある。

 魔物を研究し、また滅する現代の魔法遣い、ヴァリアント。その役目を負い、相棒として互いに選んだ少年のこの姿を見るのは当然初めてではない。そして、二度と見たくない、と思っては、いた。


 無垢なまでに真っ直ぐに向けられる視線を引き剥がすことも出来ず、一歩、二歩と近づき、伸ばした手は拒まれることなく届いた。

 触れた頬は、いつもより高い位置にあって、違和感を覚えさせるくせに、柔らかさは変わらない。



「すまない」



 そのことがどうしようもなく遣る瀬無くなって、ただひと言しか、ライカは口に出せなかった。


 金の瞳に射竦められ、そのまま離れようとする指を、思いもかけない力で、掴まれる。

 纏う炎の見かけのように熱くはなく、その眼差しのように凍てつきはしない、頬と同じ温かさの指。


 己れの頬にライカの指を繋ぎ留め、冷厳たる双眸で楔を打ち込みながら、少年は問うた。



「何を、謝る」



 瞳と同じ、常とは違う声が、有無を言わせぬ力となって、ライカの口を抉じ開ける。


 従属を強いる龍の声。けれどその同じ声が、瞳が、ライカの咽喉を締めつけも、する。



「―――お前に、」



 それでも言わなければならないのだと、少しかすれた声を絞り出した。もう一度、己れの意思で頬に指を這わせ、金の瞳に視線を絡めて。



「その声を、使わせてしまったことを」



 その言葉に応えたのは、わずかに細められた目と、何か言いたげに薄く開かれた口唇。

 誘われるように、ライカはそこに自分のものを重ねていた。ふさぐように、宥めるように。

 間近に捉えた金色が、沈む陽(ひ)のように揺らいだ、ような気がした。


 頬に触れるライカの指を強く握ったまま、瞼を下ろす。

 それを合図としたかの如く離れる口唇に吐息をついて、少年は、問う、その形で、ごちた。



「お前は、「俺」が厭わしいのか」



 相応しく平静な、似つかわしくなく淡白な、独語。

 閉じた瞳だけが彼の内心を表しているようで、見えないと知りつつ、それでも即座にライカはかぶりを振った。

 ほんの少し高い位置にある背を、けっして引き降ろすことのないように慎重に、片腕で抱く。


 いつもは見上げてくる顔を今はこちらが見上げねばならず、その瞼に口づけるためには、足先で立たねばならなかった。


 それでも、そのほんのわずかな労を惜しむき持ちなど欠片もないのだと口唇で教えてやると、ぎゅっと眉間に力が入る。

 ライカは、きちんと知っている。何を、少年が懸念しているのか。

 その懼れを、ライカは愛しいと思う。



「俺が、カイトを疎んじることなど、ありえない」



 思い、それを言葉にする。

 言葉をつくるのがあまり得手ではなかった自分がそうするよう努め始めたのも、思えばこの少年のためだった。



「カイトは、お前だ。一部分でもなく、ただ、お前が、怒ったり、笑ったり、同じようにその声があるだけで」



 閉じてしまった瞳が見たい、と思う。



「俺にとっては、変わらない」

「ならば、何故」

「お前の身体に負担がかかるのが嫌なだけだ。それと」



 口唇だけで笑い、頑なな瞼をぺろりと舐めた。

 さすがに驚いたのだろう、ぴくりと震えて開かれた金色を覗き込んで、ライカは判り易いように、はっきりと笑う。



「お前は、俺に見せたくないようだったからな。残念ながら」

「それは、」

「何の問題もないのなら、何度でも見たいと、俺は思っている」

「―――ライカ」



 指が解かれ、声と同時に、腕が首に絡みついた。

 感じる、人ひとり分には足りない、それでも確かな重み。

 肩口に伏せられた、瞳が暁か黄昏かは、判らないが。


 心に映る無垢なまでに輝く金へと、ライカは告げる。



「俺は、カイトが好きだ」



 ただひとりの、龍の少年は、小さくちいさく、うなずいた。 


作品名:pure Gold 作家名:物体もじ。