warmer
ごそごそと身動きしていたかと思うと、ころんと肩口に重みがきた。柔らかな赤毛が、かすかに鼻をくすぐる。
甘い匂いのする温みがぺたりと懐いてくるのへ、ほとんど反射のようにライカは腕を回した。
肩に視線を向ければ、力の抜けきった頭のてっぺんが見える。
その首から続く背中はライカの胸に、腰から下はライカの膝の上に預けられ、当の身体の持ち主はと言えば、TV画面に夢中である。
「猫~。いいよな猫~。か~わいいよな~」
無意識なのか何なのか、心の声だだ漏れといったつぶやきも匂いと同様に甘く、いかにも幸せそうで。
その響きと匂いとを独占しながら、ふとライカは思った。
(別に、猫を飼わなくてもいいな)
思いながら、肩の上の赤い頭に頬をもたせかける。
基本的にライカは猫好きで、実際に実家では3匹の猫を飼っていたし、幽霊船でもシーという黒猫の世話をしていた。
それでも今、猫がいなくて物足りないと思わないのは、この赤毛のためだとライカは確信している。
「何だよライカ、重い」
「……お前が言うな」
人には全体重をかけておきながら、ぬけぬけと文句を言う少年らしさの残る声に、ライカも呆れた声で返した。
言葉と裏腹に、抱き込んだ腕に少し力を入れて、それ以上の不満を封じてしまう。
予想通り、赤毛の少年はくすぐったげに軽く笑い声さえ上げた。
まるで、機嫌よく咽喉を鳴らす猫のように。
柔らかい髪からは、もうこの少年に染み付いたような、甘い甘い匂い。
「猫、飼いたいか?」
その匂いにねだられたように、ライカはそう問いかけていた。少年が小さな温もりを欲するのならば、無論、否やはない。
「うーん……」
思案げに、しばし彼は唸った。
やがて、ライカの頬を押しやるように顔を上げ、真っ直ぐに目を合わせながら、少年はにこりと嬉しげに笑う。
「ライカは?」
笑い返して、猫と同じぐらいに温かく感じる髪を撫で、
「俺は、カイトがいるから、それでいい」
それから、猫とは出来ないキスをした。