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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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wanna be

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 社会人は、忙しい。

 そんなことは、分かっている。

 そして、これは最近仕入れた知識。

 労働基準法というものは、経営側には適用されないらしい


 つまり。



『副社長業に定休などあるか馬鹿』



 ということだ。



「マジかよ~……」



 力尽きたようにベッドに倒れこむ。PETの画面の向こうにいる相手はため息をついたようだったが、それはこちらも同じことだ。

 これでもう2週間、まともに顔を合わせていない。


 しばらくは仕事が立て込むから、とIPCの副社長室に立ち入りを禁止されてからこっち、どうやら伊集院炎山は冗談を言う暇もないほどに忙殺されていたらしい。

 今だって、(痺れを切らした熱斗が連絡を取ったというのに)画面に映る彼はこちらを見もせずに、手元にちらちらと見えている白い書類と格闘している。


 片手間に相手をされている、ということにむくむくと怒りが湧いてくるが、恐らく今は、何を言っても聞き流すだけだろう。そんなこと、嫌というほど分かっている。

 ついでに、今こうやって相手をしてくれているのもかなりの特別扱いだということも分かっている。


 だけど、そうは言っても。



『炎山様。開発部からの報告が届いています』

『ああ。こちらに回しておいてくれ』

『かしこまりました』



 PETの向こうから、炎山のナビの声が届く。平時は秘書のような役目を果たすブルースと炎山の会話を聞いて、ふと、熱斗は思ったことを口に出した。



「……俺も、炎山のナビだったら良かったのに」



 別に聞かせたかったわけじゃなく、困らせたかったわけでもなくて。

 5秒ほど間をおいて、『は?』と言ってこちらを見た彼に、わけもなく後ろめたい気持ちになる。


 ただ、考えただけなのだ。



「そしたら、ずっと一緒にいられるじゃん。お前が仕事中でもさ」



 今、その場所にいる赤いナビに妬くわけでも、取って変わりたいなどというのでもないけれど。(大体そんなの無理なわけだし)

 いつでも一緒で、彼の手伝いさえ出来るその立場を。羨ましく思うことくらい、してもいいはずだ。



『……それは、俺が困るんだが』

「何だよ。どーせ俺がナビになったって役に立たないーとか思ってんだろ」

『そうじゃない』



 言いよどむように眉を寄せて、一呼吸。

 困らせている。分かっているのに、「何でもない、気にするな」のひと言が出てこないのは、会えない時間が、長すぎると思うせいだろうか。



『―――ナビになられてしまっては、俺が、お前に触れられない』



 妙に平坦な声で告げられた言葉に、そんなもやもやしている気持ちは一方的になだめられて。ああ、また彼に甘えているんじゃないかと、別の部分が落ち込んでくる。

 甘えたいわけじゃなくて、どうせなら甘えさせたいのに。

 それでも、我がままはきちんと自覚できているはずなのに、なお伝えたいと思う、身勝手な自分の気持ち。


 だけど、いつだって、知っていてほしいと思ってしまう。



「でもさ……そんなの、今と同じじゃん? 会えないと、触れない」



 小さく狭い、画面。そこに映る顔に沿わせるように、指を伸ばす。


 その動きはカメラからは外れていて、だからそちらに見えてはいないはずなのに、遠い向こう側にいる炎山も、同じようにぴたりと指を這わせてくれた。

 繋がっている、そう感じて笑いかけたのも束の間、PET越しに触れる指は固くて冷たくて、余計に寂しい気分に泣きたくなる。


 触れたいと。いつだって思っているのに。相手もそうだと解っているのに。解っているから。

 そう出来ないことに寂しさが募るのだと、相手が言わないぶん、言ってしまいたくなる。



『それでも。本当に触れられないのとは、違うだろう』



 まるで、触れているのに触れていない指を通して熱斗の寂しさが伝わったように、炎山の声が揺れた。

 そのくせ強く言い切る言葉に、小さくうなずきを返す。そうじゃないのだと確かめるように。



「……うん」

『本当に、お前が必要なら、いつでも時間くらい作ってやる』

「……うん」

『会いにくらい、行く。話も聞くし、傍にもいる』

「……うん」

『だから、そんなことを―――思うな』

「うん……」



 本当にそう出来るなら、とうにやっているくせに。

 多少の融通を利かせることはあっても、熱斗のためにすべてを放り出すことなど、どうせ出来ないくせに。


 それでも炎山がそう言ってくれることに、熱斗は満足してしまう。

 無理なことでも言ってしまうほどに、思われている嬉しさに他のすべてがどうでも良くなってしまう。


 会えなくなって2週間、それを埋めるのにはまだ足りないはずなのに。

 思われているだけで満足できる、それほどに、自分は大人ではないはずなのに。



「じゃあ、俺が……行ってもよくなったら、ちゃんと、すぐに連絡くれよな」

『ああ』



 冷たいPETの画面越し、合わせたままの指が、彼が笑っただけで少しだけ、温く感じるのはきっと自分が単純なせいなのだろうけど。

 きっと、会えない時間が長すぎて、炎山が足りなさ過ぎて、構ってもらえるだけでもいいくらいになってしまっているのだと、そう、思う。


 だから、早く。



「でなきゃ、押しかけてやるから」

『……肝に銘じておく』



 もう、ナビになりたいなんて思わないから―――その分、早く会えるといいのに。





作品名:wanna be 作家名:物体もじ。