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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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自殺願望

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 いらない機能は削除してしまえばいい。切り離して、ゴミ箱へ。それでおしまい。



 そうしてしまえばいいのかな。そうしてしまえばいいんだよね。それで話は終わり、僕の悩みは終わるし、僕が悩ませることもなくなる。

 はい、そこで疑問。


 じゃあ、どうして僕はそうしないんでしょう。



「ね。不思議だよね」

『…………………………』

「そうしたら楽だって、分かりきっていても、そうしないのって、君は経験ある?」

『……………………………………』

「返事くらい、してくれたっていいんじゃない?」

『………………………………………………』

「君って、ナビより無口だよね。そんなんじゃ、そのうち嫌われるよ? そうなっても僕知らないからね」



 ウィンドウの外に見える顔は、さっきから1度もこっちを見ていない。失礼な話だよね。

 ちょっとデータでもいじって、顔を変えてみようか。そしたらこっち見るかな?


 あ、でも、そもそもは同じ顔のはずなんだっけ。じゃ、意味なしかな。


 まったく、元双子なわけだから、好みが似ているっていうのは分かるけど、絶対、僕よりも趣味が悪いんじゃないかと思うよ。

 どうなの? 熱斗くん。



「てゆうかさ。君もどうなの、ブルース」

「何だそれは」

「こんな無口なオペレーターって、つまんなくない?」

「お前じゃないんだ」



 ナビもオペレーターも、そろって失礼。こういうコンビに付き合ってる僕ら(つまり、僕と、僕のオペレーター)って、かなり心が広いほうなんじゃない。



「でも、炎山くんなら、考えてそうな気がしたんだけどな」

「何を」

「自分ではどうしようもなくて、もしかしたら後で害になるのかもしれない感情を、どう処理するかってこと」



 あ、黙った。でも、まさかブルースに限って、僕が何を言いたいのか気づいた、なんてことはないと思う。

 たぶん、僕の雰囲気だけ見て、困ったとかそういうのなんだろうな。それだけでも随分な進歩。

 オペレーターと違って、何か喋ればきちんと反応するだけ、マシだよね。


 そうしないとどんな目に遭うのか、思い知らされてるからだろうけど?



「アポトーシス」

「……多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺のこと」

「正解。ね、これが僕らのプログラムにも組み込まれてるとしたら、どうする?」

「どうもしないだろう。単に不要な記述を削除する、というだけの話だ」

「ま、ね。普通はそうなんだけど」



 ああ、そうか。知らないんだ? それとも、気づかないだけ?


 そうだね。プログラムの僕らにとっては、それは恐れるべきことではないよ。ううん。どんな生物にだって恐れる必要なんてないことだね。

 だって、それはすべて生物にとって必要なこと。個という全体を生かすための機能のひとつでしかない。


 生物なら、役割を終えて老いた細胞。

 プログラムなら、意味を為さない記述の断片。


 それらは、消えるべきものだ。消すべきものだ。


 さて、ここでもうひとつ疑問。

 生物にとっては恐らく必要で、けれど、プログラムにとっては不要なもの。

 ねえ、それは、どう処理したらいいかな。



「炎山くん」



 返事なし。まあ、いいよ? ブルースと一緒。どうせ聞いてはいるんでしょう?



「たぶん、君だったら考えたこと、あるよね? 熱斗くんへの感情を、持て余したこと、あるでしょう」



 どうせいろいろ余計なこと考えたはずだよね。性別とか、社会的立場とか、生活の違いとか、その他にもいろいろ。

 足掻いてたこと、僕は知ってるよ。どうしたって自分で認められなくてそっぽ向いたのも、諦めきって開き直って、何とでもなれとか思ったことも。


 可笑しいよね。


 僕は、熱斗くんのナビなのに。熱斗くんと、そっくりに造られてるはずなのに。

 それなのに僕は、君の気持ちが良く解る。

 君の気持ちこそが、どうしようもないくらいに、解り過ぎる。



「プログラムみたいに動くだけなら、不要だよね。煩わされるのは困るし、それで本来の機能とか、君なら役職かな。そういうのが阻害されるのは、絶対に許容出来ないんだ」



 そうだよね。至上命令に反する可能性のあるものなんて、許容できるはずがないんだよね。

 人間なら可能かもしれないけど。グレーゾーンって、ほんとうに便利な言葉だと思うよ。


 けど、それって、プログラムにも適用できる概念?



「でも。僕は、それを、どう扱ったらいいんだろう」



 デスクトップ上をゴミ箱まで、ドラッグアンドドロップ。それでおしまい。

 そんなふうには出来なくて、でも、人間みたいに、開き直って受け入れることも出来ない。


 騙しだまし、守ってきて。消さないように、気を張って。でも、もしかすると、いつかあっさりと捨てなきゃいけないのかもしれないもの。



『…………………………』



 開いたままのウィンドウから、答えなんか、返ってこない。わかってた。わかってる。

 別に冷たいわけじゃないよね。大丈夫、分かってる。だって、伊集院炎山が、僕に―――光熱斗のナビに冷たくしきれるわけなんてないって、知ってる。


 やっぱり似ているよね。ナビとオペレーター。

 困ってるよね。ごめん。


 でも、熱斗くんには、かけがえのない至上の存在には、けして言えないことだから。同じように彼を大切に思い、そして、同じように、比べたくもないくらいに手放せない存在を持つ君にしか、聞いてもらえないことだから。



「ロックマン」



 何も言わないオペレーターの代わり、かどうか知らないけど、後ろから、声と一緒に腕が僕を引き寄せた。



「俺には、細かいことは解らんが」



 背中が、ブルースの胸を感知する。そこも、回された腕も、温度設定なんてもちろん施されていないから、温もりなんてない。


 それでも、僕は、触れ合った感覚に涙が出そうになった。


 安堵なのか、それとも、哀しみなのか。それとも、それ以外の何かなのか。

 解らなかったけど、それでも、僕は泣きたくなった。



「不必要なもの、ではないのではないか」



 泣きたくなった。

 溢れかける涙のデータを、強制的に分解する。水滴の代わりに、吹き散らされた情報の断片が、はらはらと下に舞い落ちた。



「だから―――大丈夫だ」



 今、ここで同じように、解れて、散って、消えてしまえたらいいのに。



 そう思いながら、それなのに、確かに僕は、うなずいた。



作品名:自殺願望 作家名:物体もじ。