【APH】はちみつ。【イヴァギル】
外を吹きすさぶ雪は、冷たい。
雪なのだから当たり前だろうが、寒くない雪があったっていいんじゃないかと、ギルベルトは思う。
雪の真ん中に立って、寒いと一言も言わないこの男を見ていると、余計に。
「……あれ、ギルベルトくんだぁ。どうしたの?」
「どうした、はお前の方だろ」
「そう? ふふふっ」
熱でもあるんじゃないか、なんて思うくらいにイヴァンは陽気だが、この男はおそらくこれで普通なのだ。いつだって、ただ、笑っている。
「雪だよ」
「いつもだろ。最近は」
「ふふ、そうだね。冬だもの」
ゆるりと笑った男は、トレードマークのマフラーをなびかせ、ギルベルトの方へ近づいてくる。
ひたり、と触れた指は氷のように冷たい。それだけ長い時間、男が此処に立っていたということだろう。
「暖かいねぇ、ギルベルトくんは」
「……お前が冷たいだけだろ。どんだけ外にいたんだ」
「えー? うふふ、わかんないや。ずーっと、雪を見てたから」
笑みは崩さないまま、ぺたりぺたりと冷たい手がギルベルトを撫でる。じわじわと男に奪われたはずの温度さえ、雪の中に消えてしまう。
ひやりと首筋を撫でるのは、男の手か、雪か。
「僕ってね、怖いんだって」
「別に怖くはねえだろ」
「ふふ、そんなこと言って、あんまり無防備にしてると食べちゃうよ?」
指先にゆるく力が込められ、僅かばかり呼吸を阻害され、ギルベルトは顔をしかめるがそれだけだ。振り払う事は、決してしない。
「筋張ってて肉もねーし食っても美味くないぜ、たぶん」
「ふふっ、そう? 僕、ギルベルトくんは甘くておいしそうだと思うけど」
するりと滑った指先は頭部に回り、ぐい、と傍に引き寄せられる。
「ギルベルトくんははちみつみたいだねぇ。日に当たるとキラキラしてて、癖があるのにすごく甘くって。僕、はちみつって好きだよ」
「……そんな美味いもんじゃねえだろ、俺は」
「僕がそう思うんだから、そうなんだよ」
じゃれるように触れる唇さえ冷たく、ただ、蝕まれて行く。
「……ふふっ、ほら、甘い」
幸せそうに笑うその笑みだけ、ただ、じわりと暖かい。
作品名:【APH】はちみつ。【イヴァギル】 作家名:やよい