神さまのいうとおり
(私がそんなふうに頼りないから、だから)
どうして泣くの。
だけど神木出雲は杜山しえみにそうは言えなかった。この言葉が口をついて出たところで、彼女のその想いを否定も肯定もできないことは分かっていた。
自分が頼りなかったからだと、彼女は泣いた。頼りないから、相談してくれなかったのだと。出雲はそれを聞いたとき、僅かに眉を顰めた。違う、違う。出雲の脳が否定した。直感が訴えるように答えを叩き出す。
頼りないという問題ではない。あれは違う。頼り甲斐があったって、きっと奥村燐が魔神の落とし仔だということを杜山しえみには言ったりしなかっただろう。これは予感じゃない。確信だった。
出雲は、自分を責めながら泣いていたしえみを思い出しながら、濡れた髪をタオルで絞った。任されていた仕事がやっと終わり、旅館のほうで用意されていた風呂に入り、上がったばかりだった。
湿った髪を傷めないように気をつけながら、じわ、とタオルに滲み込んでゆく水滴をもう一度強く絞り上げる。その水を掌に感じながら、もし、しえみがあの兄弟のために泣いたのなら、もったいないと思った。
あの二人は双子として生まれた。双子として生まれようとも一個人として違う人生を歩むのだろうが、あの双子の根っこの部分はまるで一緒で引き離せない。同じじゃない。見た目はそう思わせるくせに、出雲にはあの縁は恐ろしいくらいに、おなじに見えた。
その縁があの兄弟にある無意識下のものか、それは分かりかねた。お互いが望むものなのか、もしくは片割れが繋いでいるものなのか。
そこまで考えて、出雲は突然長い髪をがしがしとタオルで乱暴に拭いた。腹立たしいわけじゃない。ただ、あそこまで大げさに、少なくともあの双子のために泣いたしえみに、同情すらしてしまう。そんなことを思った自分に鳥肌がたっただけだった。
どちらにせよ、あの涙は自分の為に流してほしいと出雲は思った。あの双子には必要のないものだ。だって奥村燐に対する決意や目的を、きっと奥村雪男のほうは、しえみと出会う前からしているわけなのだろうから。
「それこそ”相談”なんてレベルじゃないわね」
生まれたときから一緒なら、それは当然であり必然なのかもしれない。決まっていたこと。成るべくして成った。言い方はそれぞれだ。
しかし、時折狂気さえ感じるその絆に、しえみは気付いていないのだろうなと出雲は思い、ひたりと足を止め、通路の窓へと視線を移した。
夜に沈んだ真っ暗な窓から見えるのは、ぽつぽつと灯るあたたかくやさしい光。
その光に、奥村燐の持つあの炎をどうしてか重ね、出雲は思わず、きれい、と小さく呟いた。
神 さ ま の い う と お り