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陽だまりを噛み砕く

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 日当たりの良いソファに座り、口に投げ入れた丸い飴をがりがりと噛み砕いて咀嚼する。
砕けた甘い塊が舌を転がり溶けて行くのを感じながら、キャンディーケースからもう一つ飴を取り出す。特に何味が良いなどという事は意識していない。甘ければいいのだ。
 キャンディーケースには嫌いな物などいれていないし、どれを取り出そうと構わない。がさりと球体を守るように捩じれて囲った包み紙を指で挟んで両側に引っ張り、光を浴びてきらきらと輝く半透明の飴を取り出す。
 落とさないよう手慣れたしぐさでひょいと持ち上げ素早く口の中に含んでしまう。
 先とは違う甘い味が舌を転がって唾液に溶けて行く。
「……ブレイク?」
 がりっと飴を噛み砕こうと奥歯に挟んだ所で、下からくぐもった声が聞こえ視線を膝に落とす。
 そしてがりっと飴を噛み砕いた。
「おや、起きたんですカ」
 がりがりと細かく砕きながら、赤い目を自分の膝にクッションを抱いて頭を乗せて眠っていたオズに向ければ、未だぼんやりとした翠玉の瞳が見つめ返してくる。
 わずかに顔を上げて、あくびを零しながらオズは緩い瞬きを繰り返した。
「上でがりがり飴噛み砕く音がしたら目も覚めるよ」
 その癖直した方がいいよ、と、呟くオズを無視して飴をもう一つ取り出す。
「きいてるー?」
 がさりと包みを開きながら、ブレイクは「聞いてますヨ」と言葉だけをオズに返す。
 ひょいと出てきた飴を口に含んで、今度は噛み砕かないようにころころと転がす。じわりと広がる甘みが先の飴の甘みに混ざって舌先を犯していく。
「そうやっていつも大人しく舐めてればいいのに」
「ついつい噛みたくなっちゃうんだからしょうがないじゃないですカ。不可効力ってやつですよ」
「……ねえ、知ってた?」
「はい?」
「飴をすぐ噛み砕いちゃう人ってね――」
 うつ伏せに寝転んでいた体を動かして、仰向けになると、オズはくすりと笑った。
「浮気性なんだって」
 胸にクッションを抱いたまま翠玉の瞳でまっすぐに見上げてくる少年に、ぱちりと瞬きをしてブレイクはがりっと飴を噛み砕いた。
「あ、言ったそばからそういうことする」
 言葉とは裏腹に笑みを浮かべているオズの額に乗った髪を撫でながら、もう一度飴を細かくするように噛み砕く。
 小さく砕けて広がった粒が溶けて行くのを感じながら、糖分を飲み込む。
「つまり私が浮気しやすいって思ってるんですか君は」
「どうだろう、だってブレイクだし」
「おやおや、信用がないネェ」
「別にシャロンちゃんとか女の子と関係を持つのはいいけど、男と持たれると流石にいやだなあ」
「寛容なお言葉で」
「でもブレイクだし」
「それは信用されてるってことですかネェ。ま、安心なさい」
 クッションを抱いたオズの左手を掴むと、そっと持ち上げ口元に寄せた。自分よりも小さい指先に唇を寄せてキスを落とす。
「今のところ私の興味は人の膝を枕にしていけすかない事をずけずけ言ってくるガキにしか向いていませんから」
 細められた赤い目に翠が反射して映るのを見て、オズは楽しそうに笑った。
「あはは、物好き」
「君も相当な物好きでショ、オズ君」
 がさりとキャンディーケースから飴を二つ取り出して、片方をオズに渡しながらブレイクはやわらかく笑った。




(噛み砕いてたら君が早く起きて相手をしてくれるかなと思ったんですよ。全部計算済み)
作品名:陽だまりを噛み砕く 作家名:いおろい