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嘘つきキャンディ

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部室にいつものような騒がしさはない。
長机に椅子が数脚、そのうちの一つに腰かけて向かい側の彼を見る。
神経質に整う彼の手元は一定のリズムで文字を綴り、長い睫毛の奥の瞳がそれを追う。
(暇じゃのぉ…)
 目に入ったプリントを紙飛行機にして飛ばしながら、仁王は一つあくびをした。
やるべき事があって、授業終了後直ぐに部室へ来たが、自分と同じように早く来ていた者がいたため『やるべき事』が出来なくなってしまった。
だからと部室から退散する理由もなく、椅子に腰かけたまま部活開始まで向かいの彼と過ごすことにした。
「暇じゃ」
 そう呟いて紙飛行機を飛ばせば、彼の手元へとするりと落ちる。
(ほう、なかなかじゃ)
 何も言わない相手を的にし、飛行機を飛ばし続けていれば途中で彼の視線がこちらを向いた。
胸のあたりが少しだけざわついて、口元が緩みそうになるのを堪えてみたが、彼の視線はまた下へと向いてしまう。
 背恰好の似た彼。
 癖も好みも口癖も知る彼。
 真似れば周囲を騙せるほどの彼。
(今は何を考えてるんじゃろうなぁ、柳生)

 なのに、考えていることが分からない彼。

 話したいことはそれなりにあって、聞きたいこともそれなりにある。
いつものように冗談交じりに切りだしてしまえば楽なのに、調子が狂って口にできない。
窓から差し込む日の光がきらきらと、栗毛の髪を照らすのを眺めながら触れてみたいという欲求を飲み込んだ。
 カリカリと、ペンの走る音だけが自分と彼の間で響く音。
「あぁー…なんじゃ、急に腹が痛くなってきたナリ」
 わざとらしく腹を抱えて唸ってみると、ペンの音が止まる。
ざわざわと体の中がざわつくのを我慢しながら、嘘の痛みに唸りをあげていれば椅子が床を擦る音が聴こえ、次いで何かを探す音。
最後に聴こえたのは
「…お飲みなさい」
 机の上を薬瓶が転がった音。
「なんじゃ、この薬」
「正露丸ですよ」
「お前さん、こんなの持ち歩いとるんか」
「いけませんか?」
「いけなくはないが…」
 もっと別なのがあるじゃろ。瓶を眺め、出かけた言葉を飲み込んだ。
「飲まないんですか?」
「これはお断りじゃ」
「痛いのでしょう?」
「お断りはお断りぜよ」
 ぷ、と口を尖らせて見せれば柳生に大きなため息をつかれた。
形良く整えられた爪の指先で、彼はずれた眼鏡をなおすと、また視線は下を向く。
(素直に飲んでみれば良かったか…)
 痛くもない腹に、彼から貰う薬を入れれば多少ざわつきが収まったかもしれないし、何より彼との会話が続いたかもしれない。
「あー痛い、痛いのぉ」
 ぴぃぴぃと騒ぐ雛鳥のように痛い痛いと繰り返し、ゴロンゴロンと瓶を転がし彼のペンの音にノイズを混ぜる。
(こっち向きんしゃい、ほれ)
 ペンの動きがぴたりと止まり、少し厚めのレンズの奥から睨まれまたため息。
「ため息ばかりじゃ、幸せが逃げるぜよ」
 わざとらしく大きめに笑えば、彼は少し口を尖らせた。
「誰がつかせてるんですか、誰が」
 言いながら立ち上がると、向かいに居た彼はすぐ横に。
「まったく…。ほら、こちらを向いて口を開けなさい仁王君」
「なんじゃ?」
 言われるがまま、あーっと口を開いて向いてみれば何かが入れられる。
舌の上にひろがる甘いざらつきと、向けられる柔らかな視線。
「それを舐め終わるまで、大人しくしていてください」
 口の中には大粒のアメ。それに思い切り歯を立てようとすれば
「噛み砕くのは無しですよ」
 と、先手を打って釘を刺されてしまう。
仕方なく砕かぬ程度に歯を立てながらコロリコロリと転がして、甘さが消えてしまうまでは大人しくしていることにする。
「甘いナリ」
「アメですからね」
 アメの転がる音と、ペンの音。混ざって溶けて鼓動音に変わる。
「なんかお前さん、「気に入っていたでしょう、そのアメ」
 お腹が痛いと言えば直ぐ薬が出てきて、アメが出てきて、睫毛が長くて、色白で。「まるで女子じゃ」と言いかけた言葉に彼の声に重なると、口の中が一層甘くなった気がした。
「ところで、何か言いかけましたか?」
「…なんも。のぉ柳生、ちょっと顔貸しんしゃい。ほれほれ」
「何か、ついてますか?」
 喉が焼けるみたいに甘ったるくて、胸のざわつきもどうにも我慢が出来ないから
「これからつくんじゃ。受け取りんしゃい」
 アメを噛み砕かない代わりに唇を噛んでやった。










「あーッなんだ、超腹痛てぃ」
 賑やかな部室で黄色のユニフォームに着替えながら丸井が口にする。
「食べ過ぎじゃないっすかね?丸井先輩」
「うっせーぞ赤也。そんな喰ってねぇっての」
「ブンちゃん、ほれ。受け取りんしゃい」
 ひょいと投げられた薬瓶を受け取って、丸井は眉間に皺を寄せた。
「正露丸?んだよ、なんでこんなんあんだよ。持ち歩いてんのかよ」
「ワシのじゃないぜよ。柳生のナリ」
「全く…痛いなら我慢せず飲むのをおすすめしますよ」
「…背に腹はかえられねぇ。飲むぜ…、ジャッカルがなッ」
「俺かよ!!!!」
「つか似てますね、ジャッカル先輩に」
「だなー。似てる似てる」
「似てねぇッ!あーもー、飲まないで良いのか?良いならコート行くぞコート」
「腹痛ぐらい俺様の天才的妙技の前では霞んで消えるだろぃ」
「なんか俺、腹痛くなってきたっす。休んで良いっすかぁ?」
「良いのか赤也、今日の弦一郎は気合いの入り方が違っていたぞ」
「…治りました。超治りました」
 面倒だと冗談を口々に、笑い合いながら皆部室を出て行く。

「あなたの腹痛はどうなりましたか、仁王君?」
「御陰さんで、薬が効いたぜよ」
 ほんのちょっぴり残った甘さが消えたら、
「でも、すぐ痛くなりそうじゃ」
「そうですか。では、痛みを感じる暇がないほど練習をしましょうか」


 キミに構って欲しくてまた嘘をつくよ。
作品名:嘘つきキャンディ 作家名:藤堂桜