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涼風 あおい
涼風 あおい
novelistID. 18630
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夏の夜の出来事

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「よー音無、今日も遅くまでお疲れさん!」
 授業を終えて外へ出ると、クラスメイトの日向がいた。
「日向もお疲れ。この時間まで入ってたのか?」
「いんや、1コマ前で終わりだったんだけど、友達とダベってたらこんな時間になっちまった」
 受験生と言えど、塾を終えてすぐ帰ってまた勉強というのはキツイ。それにまだ夏だし、今からそんなに根を詰めてやっても早々にへばってしまいそうなので、授業後の雑談をとやかく言うつもりはなかった。
 むしろ、そんな友達がいることを羨ましく思う。
 日向とは高校も同じで、塾も同じという間柄だ。待ち合わせてまで一緒に帰ったりすることはないが、会えば一緒に帰る。その程度の仲だった。
 その日もそんなわけで一緒に帰ることになった。
 夏の夜道は日差しがなくてもまだまだ暑い。じめじめとした空気が肌にまとわりついて気持ち悪い。
「音無こないだの模試の結果どうだった?」
「本命はB。滑り止めは全部Aだった。日向は?」
「まじかよ…。俺はー…ひ・み・つ☆」
 どこぞのアイドルのように、人差し指を唇に当ててウインクする日向から数歩離れる。
「ひでーな!う〜…本当は全部Cだっ!」
「全部?滑り止めもか?それじゃあ滑り止めの意味ないだろ…」
 そう言ってやったら「だよなー」と全然そう思ってなさそうな緊張感のない声が返ってきた。日向の両親や担任も大変だなと思わず同情のため息が漏れる。
 夏休み真っ最中の今、随所でお祭りが催されており、どこぞのお祭りの帰りであろう浴衣姿の人たちをちらほら見かける。
 そういえば去年は日向に誘われて近所のお祭りに行ったな。人ごみが嫌だと断ったのに、強引に連れていかれた。今年はお祭りなんて行ってる余裕はないだろうな。
「それにしても毎日あっちーよなー。音無は暑さに弱そうだからなー夏バテしてねぇ?」
「今のところはな。日向は暑いの大丈夫そうだよな」
「炎天下で運動してたしなー。暑いのは得意だな」
 チカチカと電球の切れかかった街灯を見かけて、あの街灯も夏バテしてるみたいだなとひとりごちたら、日向に「音無は時々意外なこと言うよな」と言われた。
 独り言を拾われた驚きより「意外」と言われたことに驚く。
「そうか?」
「んーなんつーか俺バカだから良い言葉が浮かばねーけど、音無っぽくはねーな」
 日向の中の俺らしさってどんなだよ。
「なーなーちょっと寄り道して帰ろうぜ」
 日向の提案にのって、俺達は公園に寄り道することにした。
 …しかし男2人で公園って…。
 俺達は自販機で飲み物を買うと、近くのベンチに腰を下ろした。少し離れた所にあるベンチでは若いカップルがいちゃいちゃしている。
 こんな人目につくところでよくやるなとそいつらを横目で見ていると、ふと視線を感じて日向の方に向き直る。
「なんだ?これ飲みたいのか?」
「いや!ちが…っ…その…」
 顔を赤くしてうつむいてしまった日向にもうひとつの可能性が思い浮かぶ。
「あー…あいつらもよくやるよな。いくら夜といえど、まだこんな時間なら一般人も通るだろうに」
 俺を見ていたわけじゃなく、俺越しにあのカップルのキスシーンでも見てしまったんだろうと納得した。
 そして、公園に入った辺りから日向がソワソワしているようなのは、カップルがそういうことをしているからだろうと。
「ち、ちげーよ…」
 何かを決心したようにキッと顔を上げると、いきなり俺の胸ぐらを掴んできた。
 なんで、なんて一考する間もなく、日向の顔が目前に迫り、避ける間もなく、俺の唇に日向の唇が触れていた。
「――っ!?」
「音無…好きだ…」
 突然の思いも寄らない出来事に、何も言葉が出ない。
 ただわかったことは、日向の顔が赤いのは夏の暑さのせいなんかじゃないことと、さっきの自分の憶測は間違っていたこと、そして手に持っていたはずの缶コーヒーが足元で空き缶に成り下がっていることだけだった。
作品名:夏の夜の出来事 作家名:涼風 あおい