restart
「挨拶~?」
いかにも面倒そうに、同僚は手を止めてこちらを振り返った。
あっさりと頷いてやれば、銜えた煙草の先が落ちる。司令部内禁煙のお達しが出ているので、煙草に火は点いていないが、未練がましいというか何というか。
寄った眉であからさまに拒否の主張をしているが、そうはいくか。
「何でまた。別にいーだろ、そんなの」
「お前今度から第3小隊預かるの忘れてっだろ。そっちにも配属組いんだよ。ちっとは隊長らしいとこ見せとけ」
せめて最初くらい。
「余計だっての」
そんな感じでぼやいているが、・・・だってなぁ。
士官学校で同期だったジャン=ハボックが、ここ東方司令部にとばされ…いやいや配属されてきたのはまだ去年の話だ。
別に学校で優秀な成績を修めただの何だのそんなおまけが付いた訳でもないだが、(どちらかというと実技以外はギリギリだった、とは本人談)ひょんなことからここの実質上の司令官に気に入られてしまっており、色々と押し付けられ…もとい、可愛がられている。
「あれはいびるってんだって」
・・・いや。
お前、まだしらねーかもしんないが。あのヒトが本気で「いびる」気なら、もーいまお前、ここにいねぇから。
との心の声はまぁ聞かせなくても良い部類だったので、黙っておく。
もとい。
まぁ、そんな年若で正規配属1年未満の少尉に丸々一隊押し付けるあの人の神経も相当なものだが、それを何のかんのと文句を付け、(周りにも文句も付けられながら)でも素で辞令を受け取ったこいつもこいつだと思う。
オレならヤだなぁ、面倒だし。とか何とか、既に主にサポート系ではあるが小隊を預かるセンパイの身としてはちょっと大丈夫なのか、と思ったり思わなかったり。
・・・それもまぁ、本人達を見ていると杞憂でしかないのか、と思うほどチカラが抜けている。
ああ、そうか。何かそーゆートコが同じ属性なのか、あんな似てないのに。
数々の語り種クラスの話は種種様々あれど、本人的には喉元過ぎればなのか、最近もう諦めがついてきたのか、ハボックは上官の奇行にも、大抵の事はもう動じない。
それどころか最近ではすすんでツッコめるようになったとか。
おめでとう。これでお前も晴れてあんヒトの狗だ。
先日、かの上官が連れ歩いてた金色のちっさいのに掛けたらしいあくどい言葉を準えた一言は、本人的には全然嬉しくないだろうからあえて心の中に留めるだけにしてやった。