おしごとちゅう
資料を取りに行こうとしてる移動中。廊下でばったりと上官に出くわした。
あ、いつものアレなのか、と思いながら一つ挨拶した所、とんと悪びれずに返してくるものだから、あれサボリじゃないのかなと思いつつ立ち止まれば、上司の後ろで何かが動いた。
あれ、何処行ったのかと思ってたらこんな所に。
「おー、お前、フュリーが探してたぞ。何処行ってたんだ?」
「私の部屋だ」
「え、執務室にいたんですか、こいつ」
道理でそこら辺を探し回っても姿見ないと思った。
・・・って。
「何か嬉しそうですね」
「そうか?」
「何か良い事ありました?」
何にもないこんな日は、朝の低いテンションのままあまりご機嫌よろしくないか、退屈してるか、が8割の上官は、今日は何やらご機嫌麗しく。
「いや、別に。・・・ただ、なんだか今日はブラックハヤテ号にずっとついてまわられていてな」
こんな感じで。
上司が少し移動すれば、その後から黒い小さいのがついていく。
立ち止まれば、小さいのも止まって傍らにお座りで待機。
最初の言い草が悪かったのか、それとも中尉の教育か、ブラックハヤテは微妙にこの上司とは笑える距離を置いているはずなんだが。(その割には最初に非常食扱いしたわりには、自分はそれなりに懐かれている気がするが)
僅かに屈み込んで小作りな頭を撫でられながら、ブラックハヤテは軽く尻尾を揺らしながらも大人しくしている。
何をいきなり仲良くなってんだろうか。
「・・・大佐、朝から肉でも食いました?」
「いや」
「行き掛けに雌犬構ってたとか」
「何故性別を限定する」
「いえ、別に」
「いちいち確認しながら犬を構うのか、お前は。第一今日はお前が迎えに来たろう」
そうでした。
行き掛けに車で上司を拾ってきたのは自分だったので、この路線もハイ消えた。
だとしたら何だろう。
「・・・私がブラックハヤテに懐かれるのにそんなに理由が必要か」
しきりと首を傾げていると、でろん、とした気配が立ち上りそうになっていて、慌てて首と手を振る。意外と可愛いもの好きなこの上司は、密かにブラハに懐かれないことを気にしているのを忘れていた。
せっかくご機嫌なところ、わざわざ下げて不興を買うこともない。
今日は基本的にご機嫌麗しいらしい上官は、大げさに否定するハボックを一瞥すると、ふん、と一つ鼻をならして踵を返した。
「戻られるんで?」
「資料を取りに出ただけだからな」
「あとで午前分回収に伺います」
ひら、と後ろ手に手を上げて答えた後ろ姿を見送っていると、のこ、と腰を上げた子犬がちょこちょこと短い足でその背を追いかけていく。
・・・和むなぁ・・・。
普段より微妙に歩調の緩んでいる上司の後を、とてとてとて、と足音も軽く黒い毛玉がついていく。
・・・あれで見張ってるつもり、なんだろうな。
きっと上司が何処かにしけこもうものなら、きっと忠義な犬は飼い主をそこに案内するんだろう。
中尉もうまいお目付け役を選んだもんだと思う。
ついて回られて何か喜んでるし、大佐。
――――…実は今朝、子犬のご主人様が『今日は大佐の見張りをよろしくね』と愛犬に言い聞かせていたという事実は、とりあえず伏せておこう。
ほのぼのしている上司+1を見送って、短い平和をかみ締めるハボックなのでした。