海をわたって永遠を探そう
眼前に広がるのは、海原だった。
途方もない大きさ。圧倒的な存在感。
幼い時分、海水浴に連れて行って貰ったことがある。まだ、父母が健在で、父母がまともだった頃。
少女が、幸せだったあの日。
あの日見た海とは、異なる風景がそこにはあった。
「ごらん」
最たるものは、隣に佇む彼だった。
少女と似て非なる、紅い瞳の彼。額縁を乗り越え、勝手に自分を侵した彼。
少女は決して、それを赦した覚えなど、ない。
けれど、彼はどうしたって、額縁の外側に、少女の傍らに立っている。これは、まごうかたなき、本当。
「水平線の向こうを」
促されて、人差し指の先、ずっと先を見つめる。
何もない、何もわからない。
固く引き結ばれた唇に触れたのが、皮膚かナイフか、それさえ少女には、理解出来ない。
「俺は、行くよ」
母なる海の、彼方を目指して。
頬を零れ落ちたのが、血か涙か、それさえ少女には―――、
「待っ…て!」
少女は、腕を伸ばす。身の内の刃の疼きを抑えつけ、無我夢中で叫ぶ。
今、捕まえなければ、と。
―――何を?
「臨也さん!!」
上げた悲鳴に近い絶叫が、産声か断末魔か、それさえ少女には理解出来なかった。
ただ、必死だったのだ。
―――何に?
「″行かないで"!」
振り返った彼が、水面と同じ色をした声で、さざなみのように囁いた。
『海をわたって永遠を探そう』
(最後に見たあの人は、哀しそうに笑っていました)
作品名:海をわたって永遠を探そう 作家名:璃琉@堕ちている途中