人生の選択の結果
だから、資料をまとめつつふと思い出したように口から発せられた言葉に、思いっきりききかえしてしまった。
「...えっと...今なんて言ったの?」
「あなた中身もダメだと思ってたけど耳もだったのね...。だから、ここの職場は産休等はもらえるのかしら?」
哀れそうに見てきたけれども、臨也にとってもそれは同じで哀れんだ目で波江を見つめ返した。
「はぁ...ついに弟君との子創造妊娠しちゃったわけ?お疲れー!創造妊娠では産休等はあげられないからね」
さてここまで打ち込むかとパソコンに向き合おうとしたその時、ボトっと目の前に一つの手帳が落ちてきた。
(母子手帳...?保護者名...矢霧波江...?....ま、マジだったのか?!!)
「な、波江!!こ、これっ?!!」
母子手帳を持ったまま、勢いよく立ちあがった臨也に、腕を組んだまま冷やかに答えた。
「だから言ったでしょう?3ヵ月すぎたから昨日母子手帳もらってきたのよ。で、産休はもらえるのかしら?」
「産休はいいけど...相手は?まさか本当に弟君なの?苗字は矢霧のままだけど...」
「情報屋のくせに情報持ってないのね。父親は誠二ではないわ。まぁ、学生だから卒業するまでは結婚はしないけれどもきちんとするつもりよ」
「お前の情報なんて調べる暇ないよ。興味もないしね。でも、一応はおめでとうと言っておいてあげるよ。まぁ、弟君以外の相手とは本当に驚いたけどね。学生って事は大学生か専門学生ってところかな?」
「高校生よ。誠二の事は今でもとても愛しているわ。でも、あの子の事を愛する気持ちが出てきて、誠二に対しては家族としての愛に変わったのよ」
それを聞いてポカンとしていた臨也だったが、ありえない単語を聞いた事を思い出し一気に反応した。
「ちょ、ちょっと待て!!弟離れしたのはいいけど、相手高校生って...!は、犯罪だよ!!!卒業後即父親ってどうなわけ?!!そりゃ俺だって帝人君相手にならいくらでも犯罪者になるけ.....っ??!!」
強制的にその言葉は終了させられた。...臨也愛用のナイフによって...。
それを投げた張本人はかつて弟に張り付く美香を見る時のモノとなっていた。
「私の帝人に手を出してみなさい...殺すわよ」
その言葉で波江の言っていた相手を瞬時に理解し、臨也自身もあり得ないくらいの殺気を送る。
「...帝人君に手を出したのかよ。殺すのは俺のセリフだ。薬か何かもったんだろう?」
「あなたと一緒にしないで頂戴。帝人とは合意の上でのことよ。あなたが帝人に告白できずにぐずぐずしている間に私は私できちんと告白をして付き合っていたもの。...いろんな事に手を出しすぎて身近な情報をつかめなかったなんて、とんだ情報屋ね」
「....っ!!この泥棒猫がっ!!」
「負け犬の遠吠ね。...っと、あなたとこんなことで時間をつぶすわけにはいかないわ。もう時間だから帰らせてもらうわね。これから帝人と今後の物を買うためにデートするのよ...ふふふ」
いつものクールな波江からは想像がつかないほど幸せそうな笑みだった。
臨也は身支度をして帰って行った波江をただ見送るしかできなかった。
はっと気が付いたときはあれから何十分もたった後...。
「クソッ!!!俺の!帝人君は俺のだったんだ!!あんな風に幸せそうに笑うのは俺のハズだったのにっ!!!あんな女に盗られるなんてっ!!.................愛してる...帝人君だけを愛しているのに...っ!!!!」
手につく限り部屋の物を壁に投げつける。そして手につくものが無くなると糸が切れたように床に片膝をつき、涙を流した。
物心ついてから初めて流した涙は枯れることなくその綺麗な頬を流れていく。
___一人の男の絶望のは一人の女の幸福へと変換される____