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戦国無双2(左三ログ詰め合わせ)

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時と無と…


「また逢いましょう、殿」
 呆然としている三成に、左近はにやりと笑ってそう言った。
 この人のために死する覚悟は、出逢った当初から出来ていた。
(左近には過ぎたる、美しいひと)
 疲れ切った、痩せてしまった頬を強張らせ三成はぶるりと首を横に振った。
「何を言う…まだこの戦、負けてはおらぬっ」
 鉄扇を、半ば投げつける勢いで腕を振ったせいで傍らに控える護衛兵にぶちあたる。
「この腕はまだ動く。この足はまだ動く! この目はまだ敵を…家康を…あの男さえ捉えてはおらんのだぞっ」
 激昂を静かに左近は受け止めた。
「殿、一刻の猶予がござらん。決断を」
 ぶるぶると体が震えた。
「俺は…」
「殿、殿…すみませんが人払いを」
 そう言うと三成が命じる前に、陣中にいた家臣と兵志数人と護衛兵が帳の外へと出た。それを確認する前に、左近は三成の細い両肩を掴んだ。
「誓います。殿に左近の全てを捧げると。運命などと言うものは信じてはおりませんが、死しても、死して次に生まれた時も左近は殿のお傍で、殿に左近の全ての時を捧げます」
 この期に及んで、真摯過ぎる眼差しに彼の本気を知る。

あちこちで、煙が上がり武士の怒声と悲鳴が入り混じった地鳴りのような声が聞こえていた。
「何も無くなりましたねぇ、殿」
 多くの諸将が三成を、豊臣を裏切り東へと付いた。
 裏切り者が…
 裏切り者めら…ッ
 歯噛みする思いだった。
 人の義に反する行いであり、それは即ち三成の敗北を意味していた。事実、三成には選ぶべき選択が二通りしかない。
「……」
 全て、無くしたというのか。
 この手から。
 この体から。
 敗北、負け戦、死。
 豊臣…豊臣の滅亡…
 ぞくりと悪寒が走った。

(秀吉さま…!)

 全てが頭の中をぐるぐると廻っていた。けれど顔には出さない。三成の瞳はいつでも上目遣いに天に向いていた。
 もう、三成に残っているものは只の一つしかない。

「死ぬることは俺が許さん」

 傷を負った左近は荒い呼吸を吐きながら、血に汚れた陣羽織姿の三成の背中を見つめている。きつく握り締められた鉄扇が僅かばかり震えていることに気づいて細く息をついた。
「殿、左近はね…殿のお傍にいられるならば無なんて怖くないんですよ。死ぬることは無…と、よく殿は仰るでしょう。しかし左近は死して尚、殿をお守り申し上げる」
「……」
「無の果てから、殿をお守り申しあげる」
 だから、殿はどうか生きて下さい。泥を喰っても、衆人にその身が晒されようとあなたの気高さを忘れず生きることを貫いてください。
 言うや否や背中を向けたままの、三成の背をかき抱いた。
 簡単に、その体は左近の腕に落ちてくる。
 血の匂いに包まれ暫し黙ったまま、温もりを分かち合う。やがて三成はぽつりと言った。

「左近…俺は、生きる」

 蚊のなくような、細い声に左近は頷いた。
 それでこそ、あなた。
















「殿」
「………」
 呼ばれて振り返ると左近が佐和山の城の中庭に佇む三成の背後に座していた。
「どうした、そんなところに座り込んで」
 扇子をぱちんと鳴らして閉じると首を傾げる。
 それを言うなれば、こんな場所に佇む三成こそどうしたと問う言葉が似つかわしい。
「いやね、たまには殿と二人」
 言うやいなや背中に隠していた酒瓶をどんと目の前に取り出した。
「左近」
「昔仕えていた、筒井の元家臣に城下で偶然に出会いましてな。土産にと頂戴したのですよ」
 三成は呆れたように息をついた。どうせこの男の事だ。舌先三寸で場を盛り上げ半ば強引にもぎ取っただろうに、それすら相手に気づかせずに別れたのだろう。そうでなければ偶然の出会いに土産など都合の良いものが付いて廻るわけがない。
「真昼間からどういうつもりだ」
 毒舌と倣岸を絵に描いたような三成だが生真面目だ。まだ昼を少し廻った時間から酒を嗜むことを良しとしない。
 しかし左近は気にした様子もなく、平然と笑ってのけた。
「花見酒とでも洒落込もうかと思いまして」
 どこから取り出したのか掌には杯も乗っている。
「用意周到なことだな」
 流石に苦笑するが、ふと我に返る。
「花見酒…」
 左近は音もなく立ち上がった。
 今更気づいたように辺りを伺う三成の傍まで歩み寄ると腕を伸ばして手を取った。ごつごつとした骨ばった男の指だ。
「花などどこにあるというのだ」
 見回してみても、そんな風流は皆無。この佐和山城は三成の意地とプライドで築かせた城だ。文吏と言われ続ける三成のせめてもの意趣返し。
 花などあろう筈もない。
「あるじゃないですか」
 主を無理矢理自分の隣に座らせて、左近は快活に笑う。杯を三成の手に持たせこれまた器用に酒を注ぐ。
「どこにだ」
 俺には見えん。と眉を寄せる三成の髪を一房ついと取ると身を寄せる。
「花ならここに」
 臆面もなく言い切る左近を、思わずぽかんと見つめた。その後でじわじわと白い頬が朱色に染まる。
「ここにあるじゃないですか」
 髪に口付けると湯を使った後なのか、ほんのりと香の良い匂いがした。
「ばっ…馬鹿を申すな!」
 耳朶まで朱に染まった三成は、思わず腕を振り上げようとしたが片手にもった杯を投げることも叶わず、そのままぐいと飲み干した。
「いや…良い飲みっぷりですな」
 はははと高らかに笑うと、ぎりりと睨まれた。
 あなたの笑みは満開に咲く桜のそれより美しく、野に咲く鈴蘭のように儚げで野菊のように凛としている。

 花と例えしきみの伏せ入る横顔の、刹那の色の美しきかな