Unknown
「NOoooooー!!」
青色が空へと熔けて星になり、試合終了の合図が鳴った。
+ Unknown +
「お前の場外になった時の声ときたら…」
「笑うな!」
あと一歩だったんだからな。
ソニックは、肩を震わせて笑うスネークの背中を叩きながら言った。
互い以外のファイター達を全て蹴散らし、1vs1。
最後の一撃を食らわそうと全力で駆けた。目と鼻の先にヤツの顔。アタックする体勢に入った。
瞬間、大きな爆音と煙。自分の体はいつのまにか宙を舞い。気付けば空高くまで吹き飛んでいた。
「オッサン、今度から地雷禁止な」
「馬鹿言え。毎度毎度同じように引っ掛かるお前が悪い」
聞こえぬよう小さくShit!と漏らした声はスネークの耳には届いたらしく、頭を軽く小突かれた。
フィールドから待合室へと戻る。
フィールドへ転送される小部屋から、次の対戦者が待ち合う部屋へは少し長めの一本道。
何も装飾のない、四方全てが真白な道が続く。
他愛の無い話をして。少し毒を吐けば、毒で返される。
くだらない会話かもしれない。いや、くだらない会話に違いない。
そう思いながらいつものように厭味を込めてニヤリと笑ってやった。その空気が心地いい。
そう感じるのは自分だけでなければ良いのに。と、思うのは自惚れだろうか。そっと自嘲した。
待合室に着くと黒い影が見えた。まさに、"影"。
「シャドウじゃないか!何してるんだよこんな所で。」
「貴様が間抜けに飛んでいくところを見ていた」
「あぁ、そうかい…」
「はは!言うじゃないか、黒いの」
「"黒いの"じゃない。僕はシャドウだ」
「おっと、悪い悪い」
項垂れるソニックの横で、スネークは謝りながら、からから笑った。
待合室にはシャドウ一人。
普段なら次試合の対戦者がいるはず…なのだが、そういえばもう昼食時。試合も昼休みだ。
皆食堂にでも向かったのだろう。具合い良くソニックの腹も鳴った。
「腹減ったー!じゃオッサン、オレ先に行くからな!」
「お前っ!待…」
スネークが制止をかけ終る前に、ソニックは部屋を飛び出して行った。
室内の空気が、彼の作った風に乗って流れるのが肌で分かった。
「彼はここでもあんな感じなのか…」
「…まぁな。少し待つとか、そういう事を考えないのかアイツは」
「知らない。彼のことは彼に聞いてくれ」
「おや、意外だな。てっきりアイツのことなら色々話してくれるのかと思った」
「僕がそんな軽率な奴に見えるのか」
「…いや、確かにそうは見えないな」
くくっ、とスネークが喉を鳴らして笑った。
「何が可笑しい」
「いや、すまない。思い出し笑いだ」
見た目のことを言うのはこの世界ではナンセンスだが、この小さな容貌とのこのような会話のやりとりに
未だ慣れず、少しおかしくなってしまう。(失礼なのは承知のうえだ)
こんなこと素直に言ってしまえば自分に良いことなど無い、と分かりきっているので口には出さず心へ仕舞う。
「…彼は君の前ではあんな顔をするのか」
「あんな、ってどんなだ?いつもあんなだろう」
「…少し、違う」
「ふぅん…」
静かに物語る、目の前の黒針鼠を見下ろす。それから一度、青い風が吹き抜けていった方を見た。
同じ世界でずっと過ごしてきたのだろう。細かいことは知らないが、きっと彼のいうことは本当で。
彼は彼なりにあの厄介者とここまで付き合い、見てきたのだろう。
「特別なんだな。きっと、君は。彼にとって」
「そうか?俺よりはお前の方が何かと特別な部分はあるだろう」
「僕も彼の特別だ」
「(自分で言うのか…)」
「けれど、」
小さな赤の瞳が自分を見据えた。
「どう特別かは、違う」
「…どんな風に?」
「それは彼に聞いてくれ」
「なんだそりゃ」
刹那流れた、緊迫した空気がシャボン玉のようにはじけた。
もしかしたら、そんな空気を纏っていたのは自分一人だけかもしれないが。
結局、こいつもひどく扱いにくいヤツだな。スネークは困惑したように頭を掻いた。
でも。
「ほら、お前も飯食いに行くぞ。早く行かないとなくなっちまう」
「…あぁ」
でも、"特別"と言われて悪い気はしない。
ぽんとシャドウの頭に添えた手を、躊躇なく手荒に払われた。