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先生のお気に入り

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僕は担任の先生の”お気に入り”だ。
僕にはわかる。
僕と、僕以外の生徒への、先生の「愛」の違いが。

「これわかるやつ、いるか?」
先生が黒板をバシバシ叩いて、声をはり上げる。
オレ出来まーす、ちょっと待って下さい僕が、いえいえ私が…
様々な声が飛んで、教室がざわついた。
先生はときどきちょっと意地悪なので、敢えてみんながすらすらと解けない、
ほんの少し先の内容とか、若干の応用が入った問題を、こうやって問いかけてくる。
若くてきれいで、でも普通の女性らしくなくサバサバしてカッコいい性格の数学教師ファロン先生は、
男子生徒はもちろんのこと、女子生徒にも人気があるらしかった。
だからみんな先生の前ではいいかっこしいになって、
分かって無くてもとりあえず手を挙げてみちゃったりするのだ。
僕も板書された問題をもう一回見直してみる。
三角形が2つ描いてあって、点があって線があって…うん、よくわかんないや。
数学は苦手な方じゃないけど大好きってほどじゃないし、
まだ習ってないところが僕に解けるわけない。
いさぎよく諦めて窓の外に目を向けた。
校舎に沿って植わっているプラタナスの上、百舌鳥と書いてモズと読む、
かのモノマネ鳥がとまっていた。

ぎっちょん、ぎっちょん

特徴的な鳴き声に、季節の移ろいをかんじたりする。
ああもう秋なんだ。まだまだ暑いし昨日普通にプールで平泳ぎとかさせられたけど。

昨日の体育はひどかった。
男子では僕一人だけが泳げなくてプールサイドであたふたしてたら、
クラスのヤツに無理やり放り込まれた。
水底に沈んで、授業の後しばらくドザエモンだったなあ。
体育教師のスノウからのマウストゥーマウス、あれきっと一生忘れられない。
トラウマをありがとう先生。

都会の狭間に思いがけず転がっていたささやかな自然にほのぼのしつつ、
思いをめぐらしていると、突然頭にするどい痛みが走った。

「いっ…」

しばらく声も出ない。何か小さくて鋭いものが当たったというか、
いや、これはむしろ刺さったかんじ。
てっぺんあたりのじんじんする部分を撫でていると、指にたっぷり白い粉がついた。
え…チョーク?

「こらホープ、ぼんやりしてるんじゃない。」

厳しい声にはっとして顔を上げると、先生がにやにやしながらこっちを見てた。
僕の席はまん中より後ろの窓際。先生がいる教卓からは結構距離がある。
それであのコントロールと球速か、先生の腕力すごい。
なんて感心している場合ではなかった。

「いや別にぼくは…」
「授業中によそ見するなんて余裕だな。よし、これはホープにやってもらおう。」

え、ちょっと。
なんでそういうことになるんだ!
どうしてか先生は、いつも何かと僕を指名したがる。
数学だけじゃない。
クラス委員とか、文化祭の劇の主役とか、弁論大会の代表なんてのもあった。
出来うる限り手を上げたりとかはしないようにしてるんだけど、それでも。
その度他の生徒から白い目で睨まれるし、
僕は僕で分からない問題や重すぎる役目にたじたじするばかりだし。
とんだ災難で苦痛なばかりなのに、先生はこれをやめてくれない。
どう考えたって僕より適任がいるはずなんだけどな。
今日だって、きょろきょろと周りを見回してみると、ごくごく少数だけど、
寝てるやつとか、午後の英語の内職してるやつとかいた。

明らかに僕より態度悪いってこいつら。ここでどうして僕をチョイスするの。

叫びたかったけど、先生はもうノリノリで、
わざわざ席の前にまで来て僕を教卓に引っ張っていく。
途中、クラスの番長格のヤツに足を引っ掛けられて素っ転んだので、
思わずそいつをにらんだら、嫉妬とか羨望とか、
なんかこうどろどろしたものを色々含んだ目でにらみ返されてひいってなった。
よくよく見たら他のクラスメートも、黒っぽいオーラ(もちろん、あくまでイメージ。)を漂わせながら、
僕の方をじっとりとした目で見つめている。
ああまたか、またなのか。

「さあ。」

先生が僕にチョークを握らせた。
僕は黒板を見る。
チョークを見る。
先生を見る。
先生が綺麗な笑顔で僕を見る。
もっかい黒板を見る。
こういう場面、中学入って何度目だろうな。
僕は泣きそうになりながらでたらめな式を書いた。

授業の後、いろいろな疲労がたまって席に着いたままぼんやりしていると、
先生が横にやってきて、ホープ、と声をかけてきた。

「一緒にお弁当食べる相手いないのか?」
「え?」

はっとなって時計を見ると、12時半。ああそうか、さっきの、4時間目だっけ。
とっくの昔に昼休みになっていて、みんなわいわいはしゃぎながらご飯を広げていた。
僕の周りには当然のように誰もいない。
先生が心配そうに頭を撫でてくれた。
僕は年より幼く見えるらしく、親戚の女のひととか、
下手をすると同級生の女の子にも、よくこういうことをされる。
子供扱いなのが明らかな態度だけど、でも、先生にされるとなんかすごい嬉しい。
童顔も悪くないなって気分になる。

「いつも気になってたんだけど、お前クラスでちょっと浮いてないか。」

先生は言いながら隣の席の椅子を持ってきて、自分の分のお弁当を僕の机に広げる。
うん、浮いてますよ。激しく浮いてます。誰のせいなんでしょうね。

「いじめられたり困ったことがあったら、何でも先生に言うんだぞ。」

ほら、これやるから元気出せ!
先生は唐揚げをつまむと、僕の弁当箱に突っ込んでくれた。
妹さんが毎日作っていると、いつだったか自慢された先生のお弁当。
僕はちょいちょい分けてもらっているのだけど、
今日の唐揚げはまた一段ときれいに揚がっていておいしそうだ。

「ありがとう、ございます。」

へへ、と笑いながら一口。うん、やっぱり抜群においしかった。
お昼ご飯を一緒に食べてくれる友達がいないのも、
プールで沈められてゴツい体育教師にファーストキスを奪われるのも。
全ての元凶はこの人なんだけど、でもまあそんなくらいのこと、
この美しい人のお気に入りでいられるのなら、大した代償でもないと思う。
幸せをかみしめながら、自分の両手を見つめる。
黒っぽい鉛筆汚れが目立ってる。

「僕手洗ってないや。ちょっと行ってきます。」
「ああ。」

ズンッ

立ちあがった瞬間、足元から駆け上がる鈍い痛みに覚えがあった。

「…ぐ…ぉ…!」

画鋲か、また画鋲なのか。
毎度毎度の古典的な手法に呆れる。相変わらずベタな嫌がらせだ。だっさださだ。
ひいひいしながら靴の裏を見ると、見事な鉄釘が刺さって、
足の皮膚まで貫通していた。
ごめん…これはちょっと新しい。

「ホープ!なんてひどいことを…待ってろ、今保健室に連れていくから。」

悲鳴に近いような声を上げ、僕を気遣う先生の肩につかまって、
何気なく教室を見回す。

…んじゃなかった。

ちくちくどころではない、ドスドスとした長刀並みの視線が、
クラス中の生徒から僕一人に向けて突き刺さっていた。
鉄釘の痛みも吹っ飛ぶくらいの痛い視線だ。
いや、鉄釘はすごい痛いけど。

「ホープ…ホープ!しっかりしろ、おい!」

二重の痛みで気を失いそうな脳内で、わんわんと、
作品名:先生のお気に入り 作家名:え。