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【APH】ドキュメント4【朝桜/捏造】

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朝桜
桜一般人設定


















「少しだけ恋してもいいですか」

 昨日よりも少し成長した大人びた横顔を持つ少女は言った。肩に切りそろえた黒髪はさんさんと降り注ぐ日光を吸い込んできらきらと亜麻色に輝いている。縁側で庭を見つめている淡い金髪の彼に向かって、首を傾げて問う。彼女は、己が犯してしまった間違えを否定することも何もしないでただ笑った。酷く無垢なその笑顔に持ってはいけない気持ちを持ち、罪悪感に犯されていたカークランドの心がふっと軽くなった。
「わたし、これからもっと恋をすると思うんです。だからそれの練習を貴方でしてもいいですか?」
 練習?そう問いかけたカークランドに彼女は深く頷いた。昨日の鬱々とした表情なんてひとかけらも見せない。どうして好きになってしまったんだろう。なんで好きになっちゃったんだろう。ほとほととカークランドの肩を掴み、顔を覗き込みながら言った少女の姿は見えない。一晩で彼女は少女から女性へと成長を果たしていた。身体を繋いだわけでもなんでもなかった。ただ、カークランドは彼女の涙をぬぐって、華奢で女性の丸みを帯び始めた身体を抱きしめて眠っただけである。ほんのりと桜の香りを放つその体を抱きしめることしか出来なかった。
「練習終わったら、ちゃんとわたし、さよなら出来ますから、」
「さよなら?」
「今日だけ、貴方に恋します。明日になったらわたしを嫌いといってください」
 赤い唇をきゅっと、閉じて決心をした瞳で真摯に言う。彼女を此処まで追い詰めてしまったのはカークランドである。未熟だった少女を可愛いと感じ、触れなくとも良いのに触れたのは
彼自身だ。彼女が己の与えた愛情で苦しむことはあってはいけない。けれども、彼女はカークランドの負担を軽くしようとするのだ。
「ね?いい考えでしょう?菊さまにも言ったの、ね?駄目かしら」
「それでいいのか?桜は」
「はい」
 迷いの無い返事で返す。その迷いの無い、健気な少女の雰囲気が心苦しかった。もっと早くに手を離せばよかった。彼女が恋愛感情を覚える前に、少女の殻を破ってしまう前に、関わることをやめてしまえばお互いに苦しむことなど無かったのに。
 恋愛は何度繰り返しても上達出来ない、執着して誰かを壊してしまう。
 己は、彼女まで壊してしまうのだろうか。泣きつかれて眠った彼女を見て夜、思った。しかしながら、彼女はカークランドが思うほどに強かったのだ。何度彼女にカークランドは逢って、どれだけの時間を過ごしたのだろう。カークランドの人生にとっては一瞬で、彼女にとっては殆ど、一緒だった。いつからか、彼は日々成長する少女に恋をしていた。禁忌だと分かりながらも、恋をしたのはきっと、彼女と一緒に居ることに麻痺したのだと、思った。それほどまでに心地良かった。
「アーサーさん」
「なんだ」
「えっと、わたしをぎゅってしてくれませんか?」
「いいよ」
 膝を付いて、手を伸ばしてきた彼女の腕を強引に引っ張って抱きしめた。太陽の香りのする髪にキスをすると、黒曜石色の瞳を細めて笑う。酷く穏やかな空間である。細く白い手がカークランドの背中に回ってふたりの距離が零になった。
「アーサーさん」
「ん?」
「好きです」
「俺も」


 いのちだに こころにかなう ものならば 
 なにかわかれの かなしからまし