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僚機

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覚えているのは断片的なものだけだった。

冷たい風、冷たい海。ベイルアウトした後叩きつけられたのは氷山漂う氷の海だった。あまりの寒さと衝撃で意識が途切れる前、地上部隊が数人ボートにのってこちらへ向かっていた。何か叫んでいたが記憶にない。

次に気がついた時は無機質なコンクリートと蛍光灯に照らされた廊下。周りには医療スタッフだろうか、白衣を着た連中が取り囲んでいた。やはり何かを叫んでいたがよく覚えていない。
そして次に気がついた時には・・・、

「シャムロック!」

違和感のあるゴム製の酸素マスク、違和感のある無機質な天井。それなのにこの声だけはとても体に馴染んだ。
すぐに誰なのかが解かったのに名前が思い浮かんでこない。言葉が出てこない。それなのに誰なのかを知っている。抱きしめてくるこの腕の感触を知っている。

「・・・・・・」

応えようと腕や指に力を込めた。だが動かなかった。全身が鉛のように重い。けれど今抱きしめ返さなければ、そうしなければと何とか動かす。

漸く相手に触れると、より強く抱きしめてくる。それで僕は酷く安堵した。
僕はこの声を聞いて生きようと思ったのだと、思い出して―――――。



作品名:僚機 作家名:やつか