こらぼでほすと 空白の四年間のどこか
してもらわないといけないんだが、頼めるか? と、申し訳なさそうに言う。
「別に構いません。二週間、あなたのお守りだけしているなんて、ある意味、時間の浪費
だ。依頼したいことがあるなら、はっきり言って下さい。」
そう言うと、その人は、いつものように微笑んで、「じゃあ、お言葉に甘えて。」 と
、詳しいことを話してくれた。その場所には、同じものがたくさんあるので、詳しい地図
まで描いて、その場所を示される。
「たぶん、白い花が置いてある。置いてあれば、それでいい。もし、置いてなければ・・
・・いや、置いてなければ、そのままでいい。」
そこに行きたいのだが、長距離の移動を止められているその人は、寂しそうに口元を歪
める。
「何本、どの種類の白い花がいいんです? 」
「ティエリア。」
「そういう風習があることぐらい、俺だって知識で知っている。あなたの代理なら、あな
たがするべきことを、俺がやる。そういうことでしょう? 」
そう睨んだら、「うん。」 と、肯定された。
「そうだな。白いバラを十本、そこに置いてきてくれ。」
「わかりました。証拠は必要ですか? 」
「いいや、おまえさんのことは信じてるよ。・・・悪いな、辛気臭い頼みごとで。」
まあ、その人にしてみれば、そういうことになるのだろう。俺には、そういう感覚はな
いのに。
「それから祈り方を。」
「黙祷でいいんだ。って、おまえさんが祈る必要はないぞ。」
「俺は、あなたの代役だ。あなたのやることを踏襲してしかるべきだと思います。」
「律儀で難儀な性格だなあ? ティエリア。」
「あなたほど貧乏性な性格でないことは喜んでいます。・・・・・・これだけですか?
もっと他にはありませんか? 」
俺ができることなら、なんでも、と、申し出たが、その人は笑って、俺の頭を撫でた。
これ以上に頼むことはないから、戻ったら、デートでもしようとからかわれた。
地球を半周した場所は、一日がかりの移動になった。レンタカーを借りて、白いバラを
十本買って、そこへ赴いた。その地域だけの独特の墓標が並ぶ場所は、雨が上がった直後
で、少し煙っていた。書いてくれた地図を頼りに、目的のものを探したら、目印のように
白い花束が置かれていた。俺が持ってきたのと同じ、白いバラの花束が、そこにある。同
じように、そこに並べて、そして、その前で黙祷した。祈ることの意味はわかっても、感
情は伴わない。
・・・・・ここに、あなたは眠っていたかもしれないんだな・・・・・
そう、ふと思ったら悲しくなった。
・・・・・あなたの肉体はなくても、やはり俺は、ここに来たんだろうか・・・・
死者を忘れないための印。だから、やはり、ここへ来ることになっていたのだろう。そ
う考えたら、本当に良かった、と、思えた。どちらも生きていた。だから、ここで語りか
ける必要はない。そこにある花束の意味は、ここへ祈るために来る、その人の関係者があ
るということなのだろう。
また、一日がかりで戻ったら、その人は驚いた顔をした。
「観光ぐらいしてくればいいのに。」
「あなたが案内してくれるまで、それは楽しみにしておく。・・・・・花束はあった。同
じバラで十本だった。これでよかったのか? 」
とても些細で、それでいて時間のかかる頼み事だ。だが、そんなことを頼まれたことは
ない。その人は、そういう弱みを見せなかったからだ。だから、頼んでくれたことは単純
に嬉しいと思っている。
「ありがとう。・・・・・白いバラは、母が好きだったんだ。疲れただろ? 今、お茶を
入れるから、ゆっくりしてくれ。」
居間から台所へ歩き出したその人に、「あの花束は誰だ? 」 とは尋ねられなかった
。何年かして、それが弟だとわかった時には、頼みごとの意味がわかって笑った。弟は十
年会ったことはないと言ったから、そうやって、こっそり安否を確かめていたのだとわか
って、その人のいつもと変わらない優しさを感じた。
「明日、デートしような? 」
温かいものを運んでくれて、そう誘われた。
「デートというのは、男女間でするものではなかったですか? 」
「ふたりで出かけるというのも該当するんだよ。たまには、地球の生き物と触れ合うって
いうのは、どうだ? 」
「アレルヤじゃあるまいし、俺は生き物には興味はない。」
「まあ、そう全否定しなさんな。おまえさんとアレルヤが出かけるのも立派なデートだと
思うけどな。」
違うのか? と、笑われた。今は傍にいないアレルヤのことを、さも居るように話すそ
の人は、そうやって俺を励ましているのだ。生きているのだから、そのうち会える。生き
ていることはわかっているから、噂をしていれば、ひょっこり現れるかもしれない、と、
以前も言われた。
「デートではない。ハレルヤも居るから三人だ。これはデートの基本人数をオーバーして
いる。」
「あはははは・・・・おまえさんも言うようになったなあ。まあ、いい天気らしいから、
ぶらっと出かけよう。俺のお守りなんだから付き合えよ。」
「わかった。俺は、あなたのお守りなんだから、どこへでも付き合う。」
ありがとう、と、その人は言う。全部、全部が終わったら、五人で、と、口にしたら、
「ああ、そうしよう。」 と、頷いてくれた。
作品名:こらぼでほすと 空白の四年間のどこか 作家名:篠義