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すずき さや
すずき さや
novelistID. 2901
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止まらぬ想い-改訂版-

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6月12日発行予定「止まらぬ想い-改訂版-」お試し読み(2,229文字)


あまり気乗りがしない合コンは楽しくない。
大学へ進学した友人たちの顔を立てて出席したものの興味のない相手に合わせて会話をすることは辛い。
少し前の自分だったら一番盛り上がって一番かわいい子を隣に置いて人一倍はしゃいでいたのかもしれないけれど、今の自分は違う。
現在、大絶賛片思い中。一方通行だ。
合コンへ行くと伝えると「楽しんできたら」と、つれなく言われた。少しくらいは妬いてくれるかと考えていたのだが、それはどうやら思い違いだったようだ。

「世良君。世良君ってば」
甘い声と甘い匂いの女の子たちも囲まれても心が浮き立たない。しかし、たいくつな顔をするわけには友人の手前できないので、仕方なく営業スマイルを浮かべた顔で彼女たちの言葉と視線を受け流した。
「世良君って好きな人いるの」
名前も知らない子にいきなり言われて面食らう。すると周囲から「私も知りたいな」「私も」と、声が上がり視線が一気に世良に集まる。プロサッカー選手ってもてるのだな。世良は他人事のように思った。
「好きな人か」
世良の脳裏に思い浮かぶのは目の前の女の子たちとは全く違う姿かたち。
目の前にいるのは風船みたいな大きな胸。くびれたウエスト。細い足首。全部まとめて女の子ですと、アピールする肢体。触ったらきっと気持ちがいいのだろうと思うなめらかな肌。アイラインに縁取られた大きな瞳。長いまつげ。赤い唇。
以前の世良なら最高だ、と思ったに違いない。
そういえばどんな体をしているのだろうか。隣で着替えているので見たことがあるにはあるが、じろじろと見てはいけないような気がして見る勇気がない。
まず、胸はありません。筋肉です。全身筋肉です。ひげ生えています。すね毛あります。同じもの付いています。そこまで観察したことないけど。
この前、着替え中にちらりと見えた堺の肌は白かった。腕の陽に焼けた部分と隠されていた胸や肩の意外な肌の白さのコントラストに興奮を覚えた。触れてみたいどころか舐めてみたいと思ってしまった。
その夜、思い出して独りでしてしまった。満足した後に「ごめんなさい」と、そこにいない相手に謝った。
少し変態の入ったばかだと自分を思った。
「いるけど、うまくいかない」
ぽつりと本音が出てしまい周りのムードが白けたものになる。
「なにそれ。つまんない」
一斉にブーイングが起こって後悔したが撤回する気になれなかった。
「どんな人か教えてよ」
突然の質問に返事を窮した。
正直に男です。年上です。おっかないです、とは言えない。余計にブーイングを食らうし、おかしなうわさを立てられてしまうだろう。
「えーっと」
自分へ向けられた好奇心丸出しの視線が痛い。言葉が出ずに頭をかく。
とにかくまず尊敬できる人。怖いけど。きついけど。厳しいけれど本当はやさしいそう言う人です。その人が大好きです。お近づきになりたいけど、壁を作られています。
これでは好きな人の説明にならない。そう気付くが言葉が浮かばず伝わらない。周囲はますます白けた雰囲気になった。
その空気に世良はのどの渇きを覚え、目の前のジョッキを飲み干すとそれと同時にブーイングが起こる。
「なにそれ」
「そんな人いないよ」
容赦のない言葉に世良は頭をかいた。
「世良、今日のお前つまんねぇ」
冗談なのか本気なのかアルコール臭い息をした友人に言われて少し傷ついた。



二次会のカラオケは断って帰ることにした。女の子たちは熱心に「一緒に行こうよ」と誘ってくれたが、応じる気になれない。
世良は営業スマイルのまま、手を振ってこの場を逃げることに決め込んだ。
「俺さ。寮の門限があるから帰るね」
本当は外泊届けを出しておいたので門限は嘘。
朝までカラオケをするつもりだったが、先ほどのやり取りですっかりやる気をなくしてしまいすぐにでも立ち去りたい気持ちになっている。
世良の言葉に対して露骨に不愉快な表情を見せた者もいたが、そこまでの付き合いの人間だと思うと世良は何も感じなかった。
「あのっ。世良君」
背を向けて数歩離れたところで呼び止められて面倒だなと思いつつ振り向くと店で特に話してない娘が立っていた。ちょっと地味系だな、と世良は思ったが顔立ちが愛らしいのでつい話を聞く姿勢になってしまう。
「さっき言っていた好きな人に好きって言ったの」
真剣な表情で彼女は問う。
「えっ」
「好きだって思っている人に好きって言ったのって聞いているの」
ひどく真剣な眼差しと突然の言葉に世良は驚くが、相手の真面目な問いかけにうなずく。
「うん。言ったけど、振られた」
その返答に彼女は緊張しているのか少し早口な口調で言葉を続ける。
「あのね。好きだって言われたら好きになっちゃうよ」
「そうなの」
「そうだよ。好きって言われたら好きかもって意識しちゃうから。だから、世良君。頑張って」
一度に言い切ると彼女は緊張から解放されたのか大きく息を吸い込み笑う。その表情を見て世良も彼女に笑み浮かべる。
「そっか。頑張ってみる」
つい、強くうなずいてしまった。世良の言葉に彼女は嬉しそうにうなずき返す。
「あきらめちゃだめだよ」
そう言ってほほ笑むと小走りに先ほどの人の輪に戻って行った。
もう一度、世良へ振り向くと小さく会釈をした。あわてて世良も会釈を返す。
そうだ。あきらめたら終わりだ。あの人も同じことを言っていた、と納得する。
今はただ、片思いの中の人の顔が見たいと思った。
「行ってみようかな」
よく通っているからいきなりでも大丈夫だろう。
携帯電話を片手に世良は歩きだした。