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鬼隠し

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もういいかい?―まあだだよ。
もういいかい?―もういいよ。






「ねぇねぇ、みかどくんいないよー」
「もう帰っちゃったのかなー」
「男子がいじめるからじゃないのー?」
「うるせえ!」
かぁかぁと烏が鳴く境内に、幼い子供達の声が響く。
「もう帰ろうよ」という一人の提案に従うように、一人、また一人と子供達は鳥居をくぐって帰路についていく。
やがてそこには誰もいなくなり、残ったのは。

「……みんな、どこ?」
掠れた声を漏らしながら、神木の影からひよこりと顔を出した、たった一人の子供だった。
短く切り揃えられた濡れたような漆黒の髪、空の青を映した双眸には薄い水の膜が張られている。
子供がそろそろと覚束なく歩き出した、時。





「―――みーつけた」





かぁかぁ、烏の鳴き声が遠くで響く中、子供の背後から聞こえてきたその声は、酷くはっきりしていて、綺麗で、冷たくて、恐ろしく。
一瞬にして子供の全てを侵食していった。
「ふ、ぇ…?」
恐る恐る子供が振り返ると、大きな双眸に一人の男が映った。学ラン、赤いシャツ、子供と同じ漆黒の髪、端正な顔立ち、笑顔、そして。
恐ろしく綺麗な、血のように赤い瞳。
人間のはずなのに、まるで人間じゃない何か思えて、その存在を目の前にして子供は息を呑んだ。
「……だぁ、れ」
「“鬼”だよ、帝人君」
「お、に?」
どうして僕の名前を知っているの。おにいちゃんはだれ?
そんな当たり前の質問も、唐突過ぎる出来事を前にしては声にならず、ぱくぱくと口を開閉させるだけに終わる。
対する男は変わらず笑顔で、そっと子供の手を取ると至極当然のように、シナリオに書かれた台詞のように、その言葉を吐いた。
「さぁ、帰ろうか」
「かえ……る?」
「そうだよ」
まって。どこに、ぼくはどこにいくの。
言葉にしたくても得体のしれない感情がそれを阻んでしまう。
やがて我慢の限界がきたように、ぼろぼろと涙が溢れ出して、子供の滑らかな頬を濡らしていった。
「ゃ、だ」
「え?」
「やだ…やだぁっ、こわい、こわい、こわいこわいこわいこわいっ」
こわいと何度も何度も繰り返し叫ぶ子供を男はじっと眺めていたが、やがて双眸を細めると、一方的に繋いでいた手を離した。
え、と子供が一瞬声を止めた瞬間。

男の長い指が、子供の細い首に絡みついた。


「っ…!?ぁ、は……っ」
ゆるり、ゆるりと力が込められ、首が絞まっていく。決して気を失う程の力ではないが、子供の息を奪うには十分過ぎた。
足に力は入らず、地面に座り込むようにしてずるずると崩れ落ちる。その間も子供の首は絞められ続けた。
「ひっあ、あ、っ」
「……来るんだ、君は。俺一緒に。ねぇ、帝人君は良い子だから分かるよね?」
「ぅあ、はっ……ゃ、ぁ」
目が、赤い目が子供を捉える。逃がさないようにしっかりと、まるで鎖のように絡みつく。

(ころされる)

頭をよぎったその答えに子供は目を見開くと、こくこくと必死に頷いて肯定を示した。
するとぱっと手が離され、一気に酸素が肺に入ってくる。それに思わず咽せていると、ぽんぽんと背中を軽く叩くようにして男が触れた。
暫く咽せていたが、子供が大分落ち着いてきたところを見計らって、男は子供を強く掻き抱いた。
「だよねえ!君はそう言ってくれると思ったよ、嬉しいなぁ嬉しいなぁ!」
まるで新しい玩具を与えられた子供のように喜ぶ男の腕の中で、子供ははぁはぁと短い呼吸を繰り返しながら遠くを見つめる。
これからぼくはどうなるんだろう。ぼんやりと考えたが、決して明るいものは何一つ思い浮かばない。
しかし、もう何も悲しくはなかった。こわいとは思わなかった。全てを諦めたかのように、酷く子供の心は落ち着いていた。

「さぁ行こうか、新しい家へ。これからは俺とずーっと一緒だからね!」
軽々と子供を抱き上げれば、男は恍惚とした表情で笑う。子供は涙に濡れた顔を男に向け、そして。



「うん、おにいちゃん」
 







かぁかぁ、烏の鳴き声が響く境内。
そこにもう、子供と男の姿はなかった。






もういいかい?―まあだだよ。
もういいかい?―もういいよ。
――ほら、


“みいつけた”

作品名:鬼隠し 作家名:朱紅(氷刹)