瞳のない少年
私は病室の番号を確認してノックした
____「ハイ・・・?」
ガラガラガラ_____部屋に入るとそこはきれいな個室だった
大きな窓があって暖かな日がたくさん差し込んでいた
そして、そのすぐ傍に真っ白なベットがあって
その上には、きれいな深緑の髪を腰まで伸ばした
一人の美少年の姿があった
「ミストレ・・・。」と声をかけるとゆっくり振り返って
「バダップ・・・?」と聞き返してきた
「あぁ・・・」と返事をするとミストレは
「やっと・・・来てくれたんだね・・・」とやさしく微笑んだ・・・
でもそれは、口元だけ・・・。目には白い包帯を巻いている
私はそれをゆっくり指でなぞる すると彼は体をこわばらせた
「すまな「うんうん・・・大丈夫だから・・・もっと触って?」
私の手に彼の手が重なる、私はその手をそっと取って彼の体をやさしく引き寄せた
「温かい・・・バダップにこうしてもらうの何日ぶりだろう・・・」
「ハハハ・・・すまなかったな・・・」
「ホントだよ・・・エスカバは使えないし・・・それに・・・
それに、ずっとさみしかったんだから________チュッ_________
「バダップ!?」
私は気が付いたらミストレにキスしていた
「本当にすまなかった・・・ずっと君に会いたかった・・・でも
君に会うのが怖かった・・・私は弱かったんだ・・・。」
「・・・・俺の目が・・・見えなくなったからか・・・?」
「違う!!」私は叫んだ
「違うんだ・・・。君に拒絶されるんじゃないかって・・・・
嫌われたんじゃないかって・・・そう考えると怖かった・・・」
「なんで俺がバダップを嫌いになるの・・・?」
ミストレは無邪気に微笑みながら聞いてきた
「それは・・・それは・・・」俺は気づくとミストレの包帯をなぞっていた
するとミストレは「あっ・・・」と一瞬気まずそうな声をもらした
「私のせいだから・・・
謝っても許されることじゃないけど・・・でも「バカだねバダップって」」
「えっ・・・?」
私が突然降ってきたミストレの言葉に驚いていると
「バカだねって言ったの、君はバカだ」とミストレは苦笑しながら続けた
「この怪我は君のせいじゃない、僕の不注意だ
それに、この怪我を負ったことを決して後悔していない
君を・・・大切な人を守って負った怪我だ・・・そんなの軍人にとっちゃ誇りじゃない?」
無邪気に語るミストレが心の底から愛しくなった
私はそっとミストレの頬に片手を添えた、そしてまた、ゆっくり口づけた_______
あれから何時間たったのだろうか
真っ白だった病室は綺麗なはちみつ色に包まれている
そして、病室と同じ色に染まったベットでミストレは寝息を立てている
穏やかで温かな時間が部屋を包んでいた
いつまでも、ぐずぐずとこの時の中にいたいという感情が心の中でぐるぐるまわっている
こんな感情今まで感じたことなんてなかった・・・なのに・・・
「私も弱くなってしまったな・・・」と苦笑して
少しためらったミストレにキスを落として病室を後にした___________。
廊下の角を曲がろうとしたところで偶然エスカバと鉢合わせした
「エス・・・(ダァァァァン
声をかけようとした瞬間、いきなり胸ぐらをつかまれ壁に叩きつけられた
静まりかえっていた廊下には今も残響が残っている
「エスカ「ふざけんな!!」」私の言葉はまたエスカバによって遮られた
「なんで・・・なんで!!お前どの面さげて来てんだよ!?
だれのせいでアイツは・・・アイツは・・・ッ」
ダンッ
また一段と強く押し付けられ背中がぎりぎりと痛む
それでも黙ってエスカバを見ていると
またエスカバが口を開いた
「お前さえいなければ・・・アイツはッあんなふうにならなかった・・・」
「あぁ・・・そうだな。」
私は冷静に返事をした
パシンッ_________
エスカバの拳が右頬を殴ったと同時に口のなかで血の味がした
エスカバの目がフリーズしたままの私をキッと見上げてくる
その目は大量の涙が溜まっていて今にも溢れそうだった
「なんで・・・おまえっなんだよッ
俺っおれなら絶対アイツをこんな目に・・・あッあわせねぇ・・・のに」
さっきまで溜まっていた涙が、彼の一言一言に合わせて零れてくる
「すまない・・・」
気づくと私は謝っていた
「ハッ・・・謝られたって、どーしよーもねーよ」
「すまない」
「謝んなよ・・・」
「すまない」
「謝んなよ!!」
エスカバがまた怒鳴った 私は黙った
「俺がみじめになるだけじゃねーかよ・・・
お前は悪くない・・・そんなのガキじゃねーしわかってるよ
でも______ッ
あーぁこんなの八当たりだ・・・」
エスカバは小さく鼻で笑って
「わりぃ・・・しばらく胸かせ・・・」といって
私の胸に倒れこんできた・・・。
私は「まったく_____」とため息をつきながら
そっと壁に頭を預けた、そして
ゆっくり目を閉じた。
その瞬間頬に温かいものが伝って行くのを感じながら
ホントに弱くなってしまったな・・・」と呟いた。