「部下が言う事をききません」
素性の所為でもあり、後見人の所為でもあり、見てくれとのギャップ、赤いちっさいのと鎧のおっきいの、といった様々な原因があるが。中でも最大の原因は、各地で巻き起こす様々な武勇伝に寄る所が大きい。
軍の狗と呼ばれる国家錬金術師だが、民衆寄りのその姿勢に好感が持たれているというのもあるが、まずは色々派手な所が。
エルリック兄弟の行く所、トラブル有りとか何とか。
その微妙に不名誉な不文律は軍部内においては公然の何とかだったが、それはまだ肝心の兄弟には伝わっていなかった。
ちなみにあとの事後処理はもれなく東方司令部まで!…というかなり余分なオマケがついていたりすることも含めて。
なので、旅に一区切り付けて戻ってきた兄弟は、イーストシティの駅を出た先に顔見知りの軍人に適当に車に詰められてあれよという間に司令部に搬送された上、真っ直ぐ司令室へ連行された時も、何故にこんな早くに捕まったのかさっぱりだったのだ。
で。
2人はぽい、と放り出された机の前で、何やら不機嫌そうな男の重々しい溜め息を喰らう羽目になっていた。
「・・・君たちの正義感は民衆側にたった立派なものだと思うし、向こうから先に手をあげたという事も聞いているが」
いかんせん、やり過ぎだ。
経緯も何もすべてかっ飛ばして正面からきっぱりと言い切られ、赤いちっさい兄はグ、と反撃出来ずに詰まった。・・・確かに、辺りの露店や商店、街頭だの道路だのを巻き添えにした大立ち回りになったのは、ちょっとばかりやりすぎたかなーと、思わなくもなかったので。
傍らでは鎧のおっきいのはすいませんすいませんと頭を下げている。
司令部の面々は、そんないつもの光景を入れ替わり立ち代り出入りしながら、僅かに笑いを浮かべながら次々兄弟をポンポンと気軽に小突いていく。
元気が良いのはいーけど勢いあまって怪我とかすんなよ、だの。あんまり派手にやってると目ぇ付けられて大佐みたいになるぜ、だの。
「無駄口叩いてないでさっさと行け!」
ドサクサに紛れて好き勝手言ってくれる部下たちを追い散らして、さて、と気を取り直したように黒髪の上官は珍しく真面目な表情で2人に向き直った。
「あまり心配を掛けないでくれたまえ。このままだと心労で確実に私は禿げる」
「自分で言うんだ…」
しかもそこを無駄に真顔で。
何だか微妙に予想からずれた一言で気が抜けた。
思わず素でつっこんでしまったが、大人はそこに関してはどうでもいいようだった。
「ちょっとは反省したらどうかね」
「…一応、ある程度直してきたつもりなんだけど」
「街の美観がどうとか、と物凄い厚さの陳情書がきてる。君、代わりに見てくれるか」
やだよ面倒くさい、とそっぽを向けば、兄さん!と横から弟に窘められる。まったく聞く耳持たない子供に、大佐は深く深く息を吐き出した。
「…これ以上命令違反かつ器物破損の凶行を繰り返すようなら、私にも考えがあるよ」
本当ならこんな手はあまり使いたくないんだがね…。
微妙に視線をそらして憂鬱そうに続ける言葉に、揃って微妙に腰が引けかける。この男がこんなノリで言うなんて、一体何が出てくるのか。
・・・が、しかし!
ここでビビッて引けば、絶対次回以降も似たような手でいらない事を押し付けられる。それだけは勘弁してもらいたい。この上官から直で何か任務を回されて、何もなかったためしがないのだ。
せいぜい小憎らしく見えるように笑ってやる。
「なに、賠償?それとも強制労働とか?あーでも長期拘束とか資格剥奪とかは困るな」
「そんな事はしない。それよりはまだ効果的だと思うよ」
「ふぅん?じゃ、何だよ」
それ以外なら何でもいいや。さー何でも持ってきやがれ、とばかりに笑う顔は歳相応の悪ガキそのもの。
ちょっとは反省する気みせればいいのに、どうしてこんなに偉そうなんだろう…とアルフォンスは遠くへ視線を投げてしまっていたが、対する大人は表情一つ変えず淡々と告げた。
「強制的にジョッキいっぱい君の大好物を奢らせてもらおう。飲み干すまでの監督は中尉に頼んである」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ひどく(一人にとっては)重い沈黙が落ちた。
「好きなだけ味わってくれたまえ。では例のモノを」
「あああぁ待った!ゴメン!!しない!!もうしないから!!!」
一瞬の硬直の後。
物凄い縋り付くかのような勢いで反省しだした兄さんを無視して、そのちっさいのをぶら下げたまま、大佐は「中尉ー」とか何とか呼びながらほてほてと廊下へ出て行く。
いやほんともうすごい反省しましたもうしません何なら今から戻ってちゃんと直してくるからそれだけはー!!
・・・とか何か、そんなドップラーを引き摺りながら退場して行った。
「・・・大佐、お暇だったんですか?」
「ヒマ…ってわけじゃねぇんだけど…今日は中央からの激励がうるさくてな…」
「しかし兄貴、アレだけはプライドもくそもないんだなぁ…」
「・・・だって、大佐、もし『やってやる』なんて言ったら即用意してくれるでしょ?」
「・・・この間、中尉がどっかからジョッキ出してたな…」
「言質とられたら終わりだって、本能で回避したんじゃないかと」
「そこまで嫌なんだ・・・」
とりあえず見送るしかなかった弟+他メンツは乾いた笑いで見送った。
いいんじゃないかなぁ、…背のためにも。
1人にとっては受け入れられるはずもない話だが、その場にいた全員がそう思ったという。
作品名:「部下が言う事をききません」 作家名:みとなんこ@紺