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神よ、

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興味がないわけではなかった。
ただ、それが愛になるかと言われたらそうではないし、
果たして己に二度目の恋など訪れるのかと。



机にきちんと座り込んで、雪男には珍しく頬杖などをして溜息と同時にページをめくった。めくった先から現れたのは、あられもない姿を晒した髪の長い女性の裸体。誘うように腰をくねらせ、口を少し開けた姿は年頃の男子にはとても魅力的に映るのだろうが雪男にとってはただの女体。それだけだった。
たったった、と軽い足取りで近寄ってきた兄が、「あっー!」と奇声をあげる。
「兄さん……」
困った人に見つかった、と雪男が振り返ると、何やらしたり顔の兄がうんうんと頷いていた。一体何を理解したつもりなのだか。
「雪男もなんだかんだ言っちゃってそういうのに興味津津なんじゃねーか」
「そんなんじゃありません」
ついいつもの授業の口調で話し始めて、雪男はそのままその雑誌を後ろ向きに閉じた。後ろの広告は避妊具だ。
「ただ志摩くんが授業に持ってきていたものを没収しただけです」
「それなー、後半の方で特集組まれてる姉ちゃんが中々いい体してんだよ」
兄のおしゃべりに雪男の眉がぴくと動く。
「……何故兄さんが中身を知っているんです?」
「へ、あ、あー……──志摩から借りたんだよ、それ、」
有らぬ方向を見てごまかせるとでも思っているのか。兄は嘘が下手だ。すぐに本当を話してしまう。
(僕にとってはただの人でも)(兄にとってはそれは魅力あるものに映ってしまう……)
酷い話だと思った。雪男にとってただひとり魅力を感じるのは兄だけだというのに。兄はまるで尻軽の女のようにふらふらと紙の中の女性に欲情するなど。
「で、お前は誰が好みだったんだ?」
なんでもない顔をして兄は雪男の手から雑誌を奪った。
ぱらぱらとめくるたびに極彩色かとでもいうくらい様々な女性がその艶やかな肌を晒す。
「僕は……」
「お前は大人しそうな女が好きそうだからな、この黒髪なんてどうだァ? それともちょっとはじけた感じがいいか? おっぱいは大きい方が」
「兄さん!」
耐えきれなくて雪男は自分でも驚くような怒気を孕んだ声をあげた。
びくっとして固まった兄から再び雑誌を奪い取る。
「──これは、没収です。あまりこのような雑誌ばかり見るのはやめなさい」
先程これを志摩から取り上げた時と同じ台詞を兄に突き付ける。
「それから……」
雪男は落ち着こうと必死だった。必死で、深く息を吸う。そして吐く。
「僕はこのような女性には一切魅力を感じません。僕が唯一魅力を感じ、心の底から欲しいと願うのは……」
喉元から競り上がる言葉を、もちろん最後まで言い切ることなど出来なかった。
この僕が。兄を、好いて、欲しているなど。
「……なんだよ、」
怯えたように兄が続きを促す。それにやはり肩から溜息をついて、雪男は席を立った。
「なんでもないです」
「なんでもなくねえだろうが」
「僕がなんでもないと言っているんです、食事にしましょう。そのつもりで呼びに来たのでしょう?」
腑に落ちないのか、何かぶつぶつ呟いている兄だったが、食事には同意して大人しく従った。雪男は去り際、そっと雑誌をゴミ箱へ捨てた。


ああ、神よ。
このいたずらな悪魔の誘惑から我をお守りください。
彼しか、愛せないなど。

(どうか嘘だと言って)
作品名:神よ、 作家名:しょうこ