Sweet?
「……あ?」
目を開ければ相棒。寝ぼけてる頭ではここはどこだったかとか夢なのかとか思いつつも見渡せば自分の家。間違いなく居るのがおかしいのだろう。
「なななな何でお前がここにいるんだ?」
「あの爆弾騒ぎで家が滅茶苦茶になったのでここに住まわせてください」
住まわせてくださいとは下手な言葉な癖に見渡すと既に運び込まれている家具に拒否権はないのだろう。どれもこれも安アパートには似合わないいい家具ばかりだけど。
「あのなぁ、ホテルとかあるだろ?なんでわざわざここに住むんだよ?男二人で住んで何が楽しいんだ?」
「ホテルは嫌いなので。どうせなら手っ取り早く住める場所に住んだらいいでしょう?二人で住むほうが効率がいいですしね。それとも困ってる年下の相方を見捨てるんですかおじさん?」
「……あのな…」
これ以上は無駄なのだろう。ここで放っておいたらプロデューサーに何言われるか分からないし困ってる人間を助けるのがヒーローなら困ってる相方を助けるのも当然だろう。
「分かった、住まわせてやるから飯ぐらい作れよ」
「分かってますよ。ジャンクフードやら得体の知れない手料理とか食べさせられたくないので。その代わり」
笑顔が近付いてきて唇を塞ぐ。一瞬だけ触れたかと思えば舌で唇を舐める、それは挑発するような馬鹿にするような笑みを浮かべながら。
「っ、お前…っ」
「当然お礼ぐらいは貰っても罪にはなりませんよね?」
「お前と俺は男同士だろう、何言ってんだっ」
俺は常識で物を言ってるつもりだけど通じているだろうか?別に挨拶程度のキスなら男同士でもおかしくはないが、唇にするのはどうだろうか?そもそもキスとか恋人同士でするものだろう?
「キスの一つで狼狽えるとかまだまだですね」
「あのなぁ……」
何でそんな普通の顔が出来るのか。俺がおかしいのか?もしかして最近の若い奴は誰とでもキスをするのだろうか?よく分からんが性の乱れってやつだろうか。
「ご飯、出来てますよ」
「え?」
「だから起こしたんですよ」
テーブルには出来立てのスクランブルエッグやら焼いたベーコン、パンなどが並ぶ。こんな食材うちの冷蔵庫にあったか?と思いながらパンを齧りこんな朝飯久し振りだなとベーコンに手を伸ばした。
「食べたら行きますよ。トレーニングしたいと思うので」
「はいはい、バニーちゃんは熱心ですね」
「バーナビーです」
料理も出来るし頭もいいし男前。もてるんだろうから早く女でも作って同棲すればいいのに、勿体無い。整った顔を見ながら溜め息をついた。
「どうかしましたか?」
「いや、余計なお節介を考えただけだ。じゃあ行くか」
バニーちゃんの運転するバイクのサイドカーに乗りジムへ向かうけども周りが騒ぐのは十分知っている。バイクに乗るだけで騒がれるとは羨ましい限りだ。
「終わるまで待っててくださいね」
「はいはい」
「ついでに買い物もしますので」
どこの新妻だ、と出かかった嫌味を飲み込んでベンチプレスに打ち込む。散々俺のことを馬鹿にしてるくせに一緒に住むだとか飯を作るだとかよく分からない。
「こうも流されやすいのはな……」
目線の先には汗を拭きながら笑顔でプロデューサーと話す。カメラがあるから取材か何かだろうけど。
「あんな笑顔俺には見せなくくせに」
何言ってるんだか。アイツからすれば俺は荷物も同然の相方で引き立て役。せいぜい嘲笑を浮かべられて終わりだろう、年下からこんな扱いをされる自分が情けなくて俺は泣きそうだけど。
「さて帰りましょうか」
決められた時間をトレーニングに費やして約束通りに買い物に行き材料と足りない日用品を買い揃える。夕方だからかこれから飲みに行く若者たちと擦れ違い、その若者たちとこの男は同い年ぐらいだろうのに遊びたいとか思わないのだろうか?
「あのよ、お前予定とかないわけ?遊ぶとか飲みに行くとか」
「今日はご飯を作る予定がありますよ。大体誰のご飯だと思ってるんですか?」
「若いくせに遊ばないとすぐ年取るぜ?」
「あいにく無駄な時間とお金は使いたくないので」
俺も遊んだ記憶とかは少ないけども酒は好きだし飲みに誘われたら行くぐらいのフットワークは持っている。一回飲みに誘うべきか、それにしても毎度毎度同じような心配ばかりが浮かぶものだ。
「…お前友達とかいる?」
「余計なお世話です」
飯を作ってもらう立場で余計なことは言わないほうが得策だ。万が一毒殺されても文句は言えないし。遊ぶ時間削ってでも家事してくれるって考えないといけないな、と自分の傲慢さに少し反省した。
「おじさん」
「ん?」
手際よく作り食卓を埋める。和食は初めてだと言いながらも煮付けたり飾り切りをするぐらいなのだから料理に悩む女性からしたら憎らしいだろう。
「美味しいですか?」
「あ?あぁ、美味い」
「良かった」
初めてだとは思えないほど確かに美味い。隅に置かれた料理の本を見ながら調理していたのだろう。それを口にも出さないで不器用な奴、とほんの少し可愛く思えた。
「なぁ」
「はい?」
お礼だと朝に言った。だったら自分からするのもおかしくないよな?とテーブルに身を乗り出して唇を塞ぐ。魚の味がするかもしれないけども、そこは仕方ないかと思って触れた。
「ありがとな、美味かった」
「……おじさん」
呆気に取られたのか固まるバーナビーはすぐに我を取り戻して、離れようとした俺の手を取る。勢い良く引き寄せては再び顔を近づけた。
「せっかく人が我慢してるのにいい身分ですね」
「は?」
「お礼、貰いますよ」
再び塞がれた唇から侵入してくる舌は歯茎をなぞりながら無理矢理歯列を割いて侵入してくる。舌を絡ませては吸い、甘噛みしてくる。長いキスの合間に漏れる息の熱さに眩暈がしそうだ。
「ん、んんんっ」
「っ……貴方が悪いんですよ?虎徹」
唇を舌でなぞり笑みを浮かべる。初めて呼ばれた名前なのにどうも素直に喜べない。
「いきなり名前で、呼ぶな…っ」
「それはすみませんでしたおじさん」
顔が見れなくて俯く俺の頬を撫でてくる。余裕ぶりやがって、年下のくせに。文句も口に出せない俺とこの男の同居はこれからどうなるのか。それは俺にもよく分からない。
END
某所で上げてたやつ。初書きタイバニでした。虎徹は可愛いよね