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璃琉@堕ちている途中
璃琉@堕ちている途中
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夢も希望も無いけれど

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―――夢も希望も、



「無い…」

彼女が愕然として呟いた言葉は、室内に保たれていた静謐さを、容易に切り裂いた。

「無い、無い…無い…!」

何物かの不在を繰り返す彼女は、やがて冷たく無機質なだけの美貌を醜く歪めていく。ヒステリックな声は高く細く。
手提げ鞄を逆さにすることから始まった。バラバラと落ちる持ち物を睨み、だが苛立たしげに溜息が吐き出される。
手当たり次第に家具を掴み、乱暴にひっくり返す彼女の掌。騒々しく書類を捲る彼女の指。室内を隈無く歩き回る彼女の足音が奏でるは不協和音。そして、悔しげに地団駄を踏む。

「無い…っ!」

とうとう髪を掻き毟り叫んだ彼女は、さながら失敗した泥棒のようだった。

「何が?」

暢気な呼び掛けは、彼女の一部始終を黙って眺めていた彼のものだ。
デスクに浅く腰掛け、優雅に紅茶を啜ってみせる。手伝いもせず。

「何が無いの」
「―アンタね」
「はぁ?」
「アンタが隠すか壊すかしたのね!?そうでしょ!?そうに決まってるわ!!」
「何の話だよ」

数瞬先にティーカップをデスクに避難させた彼は、語気荒く掴み掛かられるも、変わらず優雅に問い返す。
それが余計、彼女の神経を逆撫でた。

「アレは誠二が私にくれたのよ…!誠二が!あの子が、私の為に…っ!」

だが、次からの情け容赦の無い問いの連続に彼女は陥落する羽目になった。

「いつ」
「いつだって良いでしょ!?」
「どこで」
「どこって…あれは…あれ、は…」
「どうして」
「どう…して…?」
「ラッピングの色は?リボン?シール?裸で?紙?箱?袋?カードはついてた?」
「…そんな、の…」
「―何て言って、くれたの」
「っ…!」
「―誠二君、どんな表情(かお)してたの」
「………」

―沈黙。
自由になった腕を大仰に組みつつ、彼はとどめを刺した。

「大したことないね、君って」

―再び、沈黙。
平手の一つも楽しみにしていた彼だが、俯いたまま身体を震わせ始めた彼女に、攻め方を変えようと思い立つ。

「可愛そうな君に、良いことを教えてあげようじゃないか」

そして、落とされた肩に腕を回し、耳元で囁いた。





『夢も希望も無いけれど』

(ここには確かな愛がある)