温もりに包まれて
夜鳥の鳴く声が静かに響いている。一つ、炎の爆ぜる音がした。
「シャロン」
フッチは眉を下げて苦く笑みを浮かべ、諭すように名を呼んだ。向かいに座る少女はそっぽを向いたまま頬を膨らませている。野宿が決まってからずっと、こうして不機嫌なままだ。
「仕方ないだろう、ブライトを連れたまま街へ入るわけにもいかないし」
枝をくべる。また一つ火が爆ぜた。
「だって昨日もその前もだったじゃん! ふかふかのお布団が恋しい! おなかいっぱいゴハンが食べたい!!」
シャロンは駄々子のようにかぶりを振って不満げに喚く。そうして最後にくちびるを尖らせフッチを睨んだ。
「まったく、そんなところに勝手について来たのはどっちだよ……」
「何か言った!?」
小さく漏れた呟きは耳聡く拾われる。フッチは深く息を吐き、幾本目かの枝をくべた。
そうして背後で丸まり寝そべるブライトへと凭れる。温かい熱に包まれうっとりと仰いだ空には、満天の星が瞬いていた。明日も晴れるようだ。フッチの口元に小さく笑みが浮かんだ。
ふと視線を戻すと、先ほどまで不機嫌に手持ち無沙汰な様子だった少女が、うつらうつらと舟を漕いでいた。
「ほら、シャロン。おいで」
やさしく頬を緩ませながら、寝具代わりにと肩から掛けていた布を持ち上げる。
「昨夜ブライトにくっついて寒そうにしていただろう。ほら、こうすれば寒くないから。おいで」
「……んー」
曖昧に返事をして、シャロンはゆうるりと立ち上がった。目を擦りながら頼りない足取りでフッチの膝へと座り込む。小さくあくびをする口に、ちらりと愛らしい八重歯が覗いた。いつもこうして素直であればただただ可愛らしい少女であるのに、とフッチは少しの苦笑を滲ませて、小さな温もりをそっと抱いた。
腕の中の少女は少しの間熱を求めるように身じろぎしたあと、一つ吐息して眸を伏せる。
「あったかい……」
「うん」
「フッチとこうして一緒に寝るの……久しぶりな気がする」
「うん……そうだね」
寂しげに響いたそれには気付かぬ振りをした。自身を誤魔化すように──やわらかな金の髪へ頬を埋める。
そうして少女の吐息が深い寝息へと移ろいゆくさまを見届けて、フッチはそのまま瞼を閉じた。