波間に揺れる
「僕を呼びだすなんて上層しかないだろう?」
「俺はいつも怒られてる」
「きみは有名だからね」
僕は至って真面目だぞ、とシャムロックは渋々電話をかけなおしていた。隣の運転席にいあるタリズマンにも聞こえるほどの大声が聞こえてくるのだが、シャムロックは聞き流している。
「それで、怪我で療養中の僕に何の御用ですか?」
その後シャムロックは少し驚いた顔をしてふむふむと頷いて電話を切った。
「上は何て?」
「手と口が動くなら働け、新人パイロットの育成講座で講義しろ。だとさ」
「・・それは・・・おめでとう」
「きみが歩いて宣伝したお陰で、空軍志願兵が増えたそうだ。良かったじゃないか、これで僕も正々堂々と基地内できみに会える訳だ」
「講義じゃなくて、早く戻って来てもらいたいんだがな」
ため息交じりのタリズマンの声。
空いたままの2番機の座。守り抜くのは骨が折れる、と。
「うん? 何だって?」
聞き捨てならないぞとシャムロックは聞き返す。
タリズマンは渋い顔をした。
「2番機の志願が多すぎて、それが駄目なら3番機にしてくれと」
「ダメ。2番機は僕のポジションだし、3番機だって? ガルーダは2羽で充分だ」
「・・・隊長は俺なんだがな」
決定権は俺にあるぞとタリズマンは一応言ってみる。だが怒ったシャムロックは手がつけられない事は重々承知していた。
「断れ。絶対にだ。うかうかしてられないな、ああ、もう全く僕の足は!」
「そうだな、早く戻って来てくれ。シャムロックがいたら誰も文句は言わない」
言わせない。
「ああ、精々講義中も目を光らせてやるさ。憧れのガルーダ隊隊長に近付かないようにね。得意だぞ」
それが2番機たる者の役目だから。
その言葉を聞いて、初めてタリズマンは笑った。シャムロックはずっとそうしてくれていた。空でも、ずっと。
ありがとうと呟くタリズマンを見やり、シャムロックは自覚する。
こうして彼の笑顔を見ると、酷く心がざわめく己に―――――けれど、それが何であるのかを考える前に、脳裏から消し去ってしまった。