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双りぼっちの箱庭

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たくさんの光は受け入れない、影と光のコントラスト。
そんな朽ちかけて汚れた校舎の壁は不気味さを上手く演出していた。しかしそれらを雪男はさほど気にした事はない。晴れれば光は窓から降りそそぎ、普段はひんやりとした温度をほのかに上げる。そして光を拒絶している窓のない場所は、ひっそりと闇を守り続けていた。
その保たれたバランスを自然に受け入れられたのも、燐が言った「監獄」という言葉のおかげだった。その時、燐は雪男を看守と言ったが、実際雪男自身も監視されているのだろうと思考した。当たり前だ。毎日人間であるか否かの検査をして、正常であることを確認する時点で、可笑しな話ではないか。燐と雪男は双子で血も同じ。だから、此処が監獄と言われようが今更驚いたりはしない。
でも少々自由すぎるきらいがあるので、どちらかというと箱庭というやつなのだろうか、と雪男は考えた。


その箱庭の中、光から逃げるように沈黙する廊下を雪男は静かに歩いた。
光、影、光、影を繰り返し進み行くと目的のものはすぐに見つかった。雪男は一瞬頬を緩めて、そして眉を困ったように寄せた。

「身体、冷えるよ」

わざと大きめに踏み出した一歩。こつり、と雪男の靴が鳴る。
光を受け入れる窓をひとつだけ開け、冷たい廊下に直に座り込み、壁に背を預けてその陽だまりの部分に存在していた燐は、おー、と気のない返事を寄越した。尻尾がふわりと揺れ、またぱたりと下に落ちる。
それを視界に入れながら、雪男は燐のすぐ側まで歩み寄って見下ろす形で、なにしてるの、と特に興味なさそうに問う。燐は小さな陽だまりの中で目を細め、見りゃ分かるだろ、と口だけ動かして答えた。だいたいの返事が予測できていた雪男は呆れるわけでも笑うわけでもなく、もう一度、身体冷えるよ、と小さく口にした。
喧騒は程遠く、ひとつだけ開けた窓から入る風もほとんどない。廊下を満たすのはふたり分の気配。
これだけ。たった、それだけの世界。

「結構あったけーよ。ほら、雪男も座ってみれば?」
「嫌だよ。それに兄さんみたいにそんなことしてる時間ないし」
「あっそ。じゃあお前、何しに来たんだよ」
「……部屋に居なかったら。探しに」

誰を、何を。
それを言わずとも理解できたのか、燐は青い瞳を雪男に向けて、どこにも行かねーよ、と口にし、何かを諦めているように微笑して瞼を閉じた。そしてもう一度、あったけーと独り言のように呟いた。
雪男は目を細めて、そうだね、と同意の言葉を燐に落とす。光を当たり前のように受け入れてそのまま眠ろうとしている姿は、とてもじゃないけれど、いつもの燐だった。
悪魔だと云われようが、魔神の仔と云われようが、雪男にとって昔から傍に在った変わらない人。十五年、ずっと傍にいたのだから。
こつり。靴が音を立てて、逃げ場がない廊下に反響する。その場で屈むと、目を閉じていた燐がゆっくりと眩しそうに雪男の方を見て、戻んの、と抑揚もなく口にした。その様子に雪男は少し微笑って、頷く。

「まだここに居たいなら、いいよ」
「でもお前、戻んだろ」
「うん」
「マジで探しに来ただけ?」
「うん」
「……ゴクロウサマ」
「兄さんが素直に部屋に居てくれたら、こんな労働はなかったんだけど」
「うるせ。あったかいんだから、いいじゃねーか」
「でも身体冷えるよ」
「雪男、そればっかだな」

燐が小さく苦笑する。
そうして、分かった、と陽だまりの中にあった身体を起こして、立ち上がった。
意外に聞きわけがいいなと雪男が思っていると、雪男の身体も冷えちまうもんな、と言うから、一瞬呆気にとられて、それから口元を緩めた。

「兄さん、人の話聞いてた?」
「身体が冷えるんだろ?」
「それは兄さんの話」
「雪男もここにいるし」
「僕は座ってないでしょ。冷えるのは地べたに座ってるから、」
「おんなじ空間にいるんだから、おんなじだろ」

明るい燐の声が、光の届かない影の廊下部分まで響くと、不思議なことに熱を持って闇が晴れるのを雪男は感じた。
双子であってもまったく違うのに、燐は当たり前のように雪男を受け入れてしまう。そんな影響力がこんな所にも出るのかと感心しながら、雪男も少しでも燐に対してそう出来ていればいいと心の底で強く思った。

さきほどの陽だまりが、燐の声音を伝って冷たい廊下に浸透して行く。
それにきっと気付かないのだろうなと雪男は思ったが、それでもいいかと思い直し、光と影のコントラストの中を、帰りは燐と並んで歩いた。



双 り ぼ っ ち の 箱 庭


作品名:双りぼっちの箱庭 作家名:水乃