恋の病2
ある日、午後のティータイムにアーサーは突然泣き出していった。俺と二人でいることがつらい。苦しい、と。
その日、俺自身も驚いたことがあった。アーサーがいったその言葉に少なからず傷ついたということだ。なぜ自分の胸がナイフで刺されたように痛んだのか、それだけはいまだにわからない。ただ、あれからアーサーと気まづくなるということもなく、むしろ頻繁に二人で過ごすようにしていた。彼は俺といることが苦しいと言ったが、同時にその苦しみが和らぐ瞬間もあると言った。ならば、その和らぐ瞬間を多くしていけばいい。そのためにはもっともっと時間を共有すべきである。呪いだなんだそういうことよりこれは精神的な、そう、精神的な病なんだ。それを直すことができるのは、アルフレッド・ジョーンズ。俺だけだ!
***
「だから、アポとれっていつも言ってんだろ…」
アポなしで彼の自宅を訪問したときに彼がする癖に気付いたのはいつだったろうか。はじめ彼は一瞬間、目を見開き、口端を震わせる。上気しそうになる頬と叱咤するように眉間に力を入れ、こちらを睨みつける。そうして開口一番、アポイントメントがないことへの文句がはじまる。とまあ、癖というよりお決まりのパターンというやつだ。そりゃあ何十回と訪問していれば自然と気づくものである。
ずかずかと家へあがりこみ、お茶を一緒にしたり、食事をすることもあるが、一緒に外出することが多くなった。一日のプランなどはなく、映画を見たあとは適当に店に入りアーサーの映画批評を聞きながら食事をする。そのあと公園などで散歩をして、昼寝をする。帰りにスーパーによって夕飯の買い出しをする。そんなものだ。なんの変哲もない。
けれど、回数を重ねれば重ねるほど、そうした一日の過ごし方にハマっている自分がいて、飽きるどころか毎日だってこうしいていたいと思い始めているのだからやっかいだ。
今日も新作のアメリカ映画を見に行こうと、アーサーの手をつかみ強引に外へと連れ出した。
「ねえ」
「ん」
「なんか今日静かだね」
「べっつに…」
珍しく綺麗な夕焼けをバックにしながら、両手いっぱいにスーパーの紙袋を持って歩く。新作のアメリカ映画についてもそう酷い批評はうけなかったし、なによりアーサーは一日中もじもじしていた。静かな分には平和であるし、かまわないのだが、どうも調子が狂う。
「なんだよー。君がそんなだとつまんないぞー。もう帰っちゃおうかな」
「えっ」
少し後を歩いていたアーサーが歩みを止めて声を上げる。アルフレッドも自然を足を止めて、アーサーのほうを振り返った。
「嘘だよ」
「てっめえ!」
「ははは、君ってホントおかしいなあ」
両手いっぱいになんてかわなければよかったな、とアルフレッドはおもった。アーサーの手をとりたいと思ったからだ。