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空浄95 勝手に五年後あたりを妄想

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髪の毛のひと房をつまんで口付けたら、悟浄はあからさまに馬鹿にしたような顔をした。
「どこでそんなこと覚えてくんだよ馬鹿サル」
俺はそれが悔しくて、その体制のまま悟浄を睨みつける。けれど悟浄はあっさりと目をそらして、手元の雑誌をぱらりとめくった。スポーツとか政治とかギャンブルとか、あとエロいこととかがごった煮に書かれた娯楽誌だ。昔から悟浄がよく読んでいたので、オレはそれのタイトルも値段も発刊ペースも知っている。
「髪に触られるのまだ嫌いなの? 馬鹿みてー」
耳元でそう言うと、雑誌にかけられた悟浄の小指が震えた。なにか言おうとしたのか口元が少し動いたが、結局悟浄はなにも言わなかった。そんな態度にもオレは腹が立った。
 あのころならきっと悟浄はオレに罵声をあびせたはずだ。何しろその話題は彼の逆鱗だったから。
「オレが怖いんだろ」
悟浄よりも背が高くなったから? こどもじゃないから? 下にみることができなくなったから?
そんな態度はオレの知っている悟浄じゃないみたいで、けれどそれも彼の一部に違いなかった。
「お前が怖いとか笑わせんなよ?」
そうしなくちゃいけない、という義務のように悟浄はそう言った。うしろにいるオレを振り返ったために髪が揺れる。顎よりも少し長い位置。悟浄はあのころのような長髪ではない。

「髪切ったのなんで? まあ似合ってるけどさ」
「別に意味なんてねえよ。うっとうしかっただけ」
悟浄は話題が変わったことに安堵しているようだった。強張っていた肩が落ち着いて、また視線を雑誌に戻す。広げられているページは地域のデートスポットの特集のようだったが、それに集中することに決めたようだった。
「そんなん読んだって遊びにいく相手なんていないだろ?」
「ばっか。俺が一声かけりゃーな…」
女の子なんていくらでもいるんだよ。たぶんそんなようなことを言おうとしたんだろう。けれどオレは最後まで言わせずに悟浄の口をふさいだ。口で。
 唇は相変わらず薄くて冷たかった。舌も薄くて少し長い。深く口付けようとすると悟浄は頭を揺らして逃げようとした。今更逃げようとする態度に腹が立って、腕をつかんで体ごと引き倒した。
 宿のシャンプーの香りがした。カミツレの匂いだ。赤い髪がシーツの上にちらばって、薄闇の中にも派手な色彩がきれいだった。
「逃げんの?」
「逃げねーよ」
悟浄はそう言って体の力を抜いた。赤い眼は閉じられて、それからずっと開かなかった