Don’t forget 520
元上官命令だ―ロイ・マスタング”突然送られてきたごく短い手紙。
あのやり取りからもう数年も経つのに覚えていたのかという驚きと喜び。
そして大きな絶望感と共に今エドワードは大総統就任式直前の執務室にいた。
部屋にはロイと自分の二人きり。
「けっこう時間かかったんじゃねーの?」
などとついかわいくない言葉を吐いてしまう自分に舌打ちしたくなる。
ほんとに自分は素直じゃない。
「相変わらず手厳しいな。」
と堪えた風もなく返す胡散臭い笑顔にすら懐かしくて泣きそうな気持ちになる。
「さて時間もないことだしさっそく借金を返してもらおうか」
ついにきたその言葉にポケットの小銭をぐっと握りしめながらも抵抗を試みる。
「民主制がまだだろ」「鋼の」「その次もなんか約束取り付けるし」「・・・」
「ずっと約束し続けてやるって言っただろ」「いいから早く返したまえ」
「なんだよ、大総統様が520センズごときでおかしーぜ」
「鋼の!とにかく小銭は返すんだ」
急くような強い口調で返され思考が停止する。
ポケットから手を引き出され、握り締めたまま固まった指を無理矢理開いて小銭が奪われていく。
「そんなに俺とはもう縁を切りたいのかよ・・・」
国家錬金術師の資格を返上し軍属でなくなった今、軍のトップにつく男に会うことなどもう二度とないかもしれない。
男がそれを望んでいるのかと思えば絶望で頭が真っ白になった。
エドワードの力なくうなだれる姿を見て困ったようにロイが声をかける。
「言葉が足りないのはお互い様だと思うがね。私も緊張してるんだ」
切望していた最上位に就くのだ。緊張もするだろうとぼんやり考えていると目の前に小箱を突きつけられた。
「約束を取り付け続けると君は言ったな。死ぬまで見守ってくれるつもりだと解釈してよければこれを受け取ってくれないか」
頭が回らないまま箱を受け取り震える手で蓋を開くとそこには白金色のリングがあった。
内側に小さく文字が刻まれている。
「どうせ返さない小銭の代わりにこれを持っていてくれないか。」
「そしてできればずっと私の側に」
弾かれたように顔を上げれば余裕のないただの男の表情があった。
「今まで言ったことはなかったけれど。愛しているよエドワード」
ふいに視界が霞み頬が濡れた気がした。
「わかりにくいんだよ、あんた」
やっと声を絞り出すと堪らずロイの首にすがりついた。
「俺も・・・愛してる!」
リングに刻まれた言葉は・・・
“Don’t forget 520”
それは二人だけの永遠の約束―――
作品名:Don’t forget 520 作家名:はろ☆どき