緑茶とスコーン
とある日の午後3時、英国のとある邸宅の一室で二人の男がなにやら妖しげな会話をしていた。
「も、むり」
苦しい、と口内を犯す苦い味が不愉快なのか形の良い眉をしかめた黒髪黒目の小柄な東洋人男性が言った。
「はっ、飲み込めよ?」
と、その男性に向かい合う形で密着していた凛々しい眉が特徴的な金髪緑眼の西洋人男性厭らしい笑みを浮かべながらも無慈悲にも言い放つ。
「うぐっ、」
そして、西洋人男性は東洋人男性の口に惨たらしい物体を無理やりに詰め込み――――
「美味いか?おれの・・・」
「あ、」
そこで、東洋人男性こと本田菊の意識は途切れた。
「今日こそはイけると思ったのに。」
目の前で可愛らしく、頬を膨らませているのはさっきまで嬉々として本田を言葉攻めしていた張本人だ。
いくら、可愛いといっても世の中には許される事と許されない事が在る。
といいつつも、結局はほだされてしまう辺り自分はこの人に甘いと思うと本田は自覚していた。
「・・・あなたは一度、スコーンの材料になってしまった物に謝るべきです。アーサーさん。」
その言葉に、西洋人男性ことアーサー・カークランドは泣きそうな顔になる。
「し、しかたないだろっ!俺だってああしたくはなかったさ。」
そう、先程まで本田が無理やりに食べさせられていた物は【食物兵器】と名高いカークランドお手製のスコーンだ。
「嘘おっしゃい。絶対楽しみながら、完食させようとしてましたよね?」
恨みがましく、本田がカークランドを睨みつつ温厚とは程遠い低い声で詰め寄る。
「う、嘘なんか・・・」
涙を浮かべて、泣き出す寸前だ。
いつもならばここで、あやしたり抱き締めたりで泣き止ませるのだろうが今日ここで甘やかしたら本田は一生あのスコーンを食べさせられるだろう。
そこには、それだけは避けたいという鬼気迫る勢いがある。
なので、厳しく接することにしたようだ。
「いいえ。笑ってました。」
「確かに笑ってたけr」
「認めるんですね?」
と、本田はカークランドが言葉尻を言い終える前に遮るかのように口を挟む。
「きょ、今日の菊いじわるだっ!」
どこに興奮する要素があったのか彼、カークランドは頬を赤らめた。
「なぜ、そこで頬を赤らめるのです?」
見るからに、意地の悪い笑みを浮かべて本田は問い詰めていく。
「は、あからめてなんか・・・」
「いえ、赤いです。もしかして・・・」
新しい玩具を見つけた子供のように、嬉々として・・・
「ないっ断じてない無い!」
「何がとは言ってませんよ?」
「あ、べっ別に違うからなっ菊に責められるのが気持ち良いなんて絶対に有り得ないんだからなっ!」
気持ち良いんですね?
本田にとって、恋人の新たな一面を知ってしまった瞬間だった。
まぁ、どんな貴方でも愛せる自信はありますが・・・と彼は呟きつつ
人差し指を立て、
「今度からは、一緒に作りましょう?」
と、すがすがしい笑顔で言い放った。