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せいこううどく

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晴れの日は畑で仕事をし、雨の日には読書に勤む。これを晴耕雨読という。
この世界も季節は梅雨を迎えた。とはいってもあくまでステージには独自の天気設定が組み込まれていたので不都合はなかったのである、これまでは。
「退屈だ!」
「なら読書でもすればいいだろう。マスターハンドとロボットが今復旧作業をしているのだから」
私はルカリオの愚痴を顔も上げずにあしらう。
このところ、晴れの日ぐらいしか試合がない。
ウェザーシステムにハッキングでもされたのか、外の天気がステージと観客席にも干渉しだしたのだ。ファイターたちがすぶぬれになるのは構わないが、試合を見にきたものだちに風邪をひかれては責任問題になる。梅雨モードの解除をしようにも、ロックがかかっており変更不能らしい。
このような騒ぎをおこせるのは限られている。この世界を統べるマスターハンド、その弟クレイジーハンド、そしてファイターであるがこの世界のコンピューターの端末でもあるロボット。この顔ぶれでは犯人は一目瞭然である。クレイジーハンドだと早々に見抜かれ、結局マスターハンドとロボットのふたりがクレイジーハンドの悪戯の尻拭いをしているのだ。
「晴れの日はたまにくるから我慢しなさい」
事情がわかっていても不機嫌らしいルカリオをたしなめた。
まあ焦れる気持ちは分かる。不運なことにこの異常期に入ってから彼の出場はまだない。暇を持て余したのか、ルカリオはよく私の部屋に入り浸るようになった。
とはいえ、私は晴耕雨読の精神で図書室から本を借り読んでいるので、ろくに相手をしてやれない。ポケモンでも字くらい読めるだろうし、現にピカチュウがなにやら本を借りていたのを私は知っている。
「……このあいだからずっと読んでいるその本は一体なんの本だ?」
やっと読書する気になったのか、と私は振り返り表紙を見せた。
「『パピー・ポッティと愚者の石』? このキャラクターはカービィに似ているな」
「私の世界の昔のベストセラーだ。内容はファンタジー、かな」
語尾が弱くなる。それにルカリオが首を傾げた。
「魔法のでてくるはなしなんだが、この世界は魔法が使えるものがいるからな。それをファンタジーと言っていのか迷ってな」
私は苦笑交じりに答えた。この世界には違う常識をもつの出身者がいる。私たちにとってはファンタジーでもあるものにとってはリアルなのだ。
「それでどんな筋の話なんだ」
言葉の途切れた私に水を向けた。
「ああ、主人公が魔法使いになる学校に入学して、様々な経験を通じ、成長していく話だ」
「……あなたがそういうのを読むとは意外だな」
「作者とは昔、縁があってな。見つけて懐かしく思って手に取ったんだが、やはり面白い。お前も読んでみたらどうだ?」
又貸しになるから返却日まで待ってもらうがな、と付け加えた。
なら早く読み終わった方がいいかと書見台に向かう。と後ろからぐいっと引き寄せられた。唐突なその行動にそのままばたんと倒れ、真上で睨む犬を見上げた。
「なんだ、一体?」
「なんだ、じゃない。本より私を見てくれ!」
犬歯ののぞく口元が近寄った、そのとき
<呼ビ出シデス。試合再開ノ目処ガタチマシタ。メンバーハ、マリオ、Mrゲーム&ウォッチ、リュカ、ルカリオ。以上ノファイターハ流レノ指示ガアリマスノデ至急控室ニ来テクダサイ>
ロボットの音声がスピーカーごしから響いててきた。
「だそうだ、ほら待ちに待った試合だ。行ってこい」
私の身体に覆い被さったままののルカリオを促した。しばらくぐるぐるとしていたようだか、ふう、と息をつき立ち上がり、彼は部屋をあとにした。
なんとなく倒れたまま彼を見送る。
「ああなるほど、ね」
あいつは本に嫉妬していたのかとおかしくなる。かまって欲しくてたまらなくて私の部屋に来ているのに私がつれないものだから、焦れたあげく押し倒した、いや引き倒したという訳か。
確かにしばらく“ご無沙汰”だったな、と苦笑する。若さのエネルギーといったところか。しかしその鬱憤晴らしに相手させられる連中には気の毒なことをしたものだ。
含み笑いをしながら私は立ち上がり、勢いで落ちた本を手に取り読みかけのページにしおりを挟む。
「さてと、チョコレートケーキでも買っておいてやるかな」
今夜土産片手に尋ねてやれば、機嫌は治るだろう。もっとも好物よりも喜ぶのはきっと。
私は本を台に戻した。
違う世界、違う常識。けれど誰かが誰かを愛する想いはそうかわらないのだろうな。求められるというのも悪くない、頭に浮かぶ年下のかわいい恋人の姿に私は小さく微笑んだ。
作品名:せいこううどく 作家名:まなみ