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八尾比丘尼は水泡に帰す

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「誰も君を縛ってなんかいない・・・変われ!」

白野蒼衣がそう唱えた途端に人の形をした異形、神狩屋さんは泡になった。
 彼が、白野君がこのロッジに来てから大きな泡渦が次々と起こった。
でも、その中でこれ程までに大きな悲劇があっただろうか?いや、無かったはずだ。
実際の被害状況は、大きいほうではないむしろ最小限で済んでいる。
では何が酷いかといわれれば、・・・異形となってしまった神狩屋だ。
今回は、無罪だと知っていて尚死刑を行うようなものだったのだから―――。

「白野君、」
「雪野さん、大丈夫?顔色悪いよ。」

自分の足で立っているという事事態が困難なはずなのに、周りを気遣おうとする。
私は、彼のこういうところが嫌いだ。
『泣きたいならば、泣け。』
なんて、甘えは許さない。
かといって、平素を装う事も許さない。

「あなたのほうが、悪いわ。」


そう一言って雪乃は蒼衣の首に腕を―――、断章をいつでも使える様にとその為に自ら傷つけた後の血に乾ききっていない腕を正面からまわした。


「雪乃、さ」
「・・・、後ろめないで。むしろ、誇りなさい。」

あなたは、当然の事をしたの。


蒼衣の方が背が高いので、当然雪乃は爪先立ちをしなくてはならない。
そうする事で、一層いまにも泣き出しそうな蒼衣の瞳が雪乃に近付く。

「誇れって、何を誇ればイイの?」


最愛を、手に掛けたんだよ?
人間失格じゃないか。


そう呟く蒼衣に雪乃はまわした腕に力を入れた。


「この世界は綺麗なまま生きていくには汚れすぎていて、汚れたまま生きていくには綺麗過ぎる。」
「は、」
「神狩屋さんが、そう言ってたの。」
「・・・だから?」
「私たちは、正しいの。いえ、正しいと思いなさい。」


雪乃は、強く言い切る。


「正しいなんてっ、そんな・・・」
「白野君、はっきり言うわ。あなたの断章は、世界を壊すことだって出来る。だからといって、変える?」

私でさえ、焼き切れないものを・・・

「でも、壊せないでしょう?」
「あ、ぁ・・・出来るわけ無いじゃないかっ!」

そうよ、出来るわけ無いわ。
あの人が、あなたの特別が愛した世界なのだから。

「おめでとう、あなたは立派な騎士よ。」
「うっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


その言葉に、蒼衣は雪乃の華奢な体を抱き締めて絶叫した。

神狩屋さん、やっと願いが叶ったわね?

「ねぇ、白野君よく聞いて?人魚姫は××にならなければ終われないの。そうじゃないと、幕は降りて来ないわ。」

ああ、人魚姫は死んだ。
王子は残された。
王子は代替の姫で満足してくれるのだろうか?

「――――――っ!××?あははははははははははははははははははははははははははっ!?そうだねっ、みーんな水の××だ。」


宵闇に解けた、空虚な浜辺に青年の声が響き渡った。