緑の森の崖の下
おまえは笑うかもしれない。何言ってんのじゅんさん、って。そう言って会話を終わらせて、あの悪夢を水底に沈めてしまうかもしれない。それは神への多大な愛の、副産物である慈愛だろう。利央、清らかで優しいおまえはそれで総てが済むかもしれない。だがおぞましい化け物であるおれは、おまえの排泄器官であるはずのあの窪みへの憧れを捨てきれないのだ。今も夢に見てしまう。あのあたたかさ、おれを切なくしめつけた感触! わかるか利央。おれはおまえがもっとも忌み嫌う悪魔なのだ。しかし最も救いがなく、最も尊い真実は、おれがおまえをどうしようもないほど愛していて、おまえがおれを、お、あえの犯されざるべき部分を汚したこのおれを、許してしまう程度には愛していたということだ。これだけは胸を張って言おう。おれはおまえを愛してる。おれにとっておまえがこの世界で一番美しい存在だ。おまえはおれの太陽なんだ。
だから利央、どうかおれをおまえの手で傷つけてくれ。おれがおまえをこれ以上苦しめる前に。一緒に天国に行こうなんて言わない。そんなことは叶わないと知っている。だから利央、おまえの言葉で、おまえの手で、おれを殺してくれないか。利央という天国で、おれを永遠にしてほしいんだ。おまえは苦しむかもしれない。でもほんとうは、そんな必要はないんだ。きっと優しいおまえは苦しむだろうけど、おれをどうかおまえの心に留めてほしいんだ。ただそれだけだ。そうしたらおまえがそれを掬って、一緒に天国へ連れていってやってくれ。おまえには辛いだろうけど、おれの最後の我が儘を許してくれないか。最後まで無様だった男の、最後の願いだ。ああ利央愛してる。おれを嫌いだと、憎んでいると叫んで、ひと思いに突き落としてくれ。泣かなくていいよ。さあ早く。そしておまえの心臓におれを刻みつけてくれ!