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我が手  黒白

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息を吐くと、白い。ふーっと長く吐いて、それが消えていくのを楽しんでいた。夜目にも鮮やかな白梅を見上げている。寒いばかりの日が続いていたのに、春は、やはり訪れるつもりらしい。
 ほっそりとした三日月が、白梅を照らす。ただ、それだけのことなのに、とても幻想的だと思った。あれを連れては来なかったのが惜しいと思うほどだ。
 春は、すぐにやってくる。生命を溢れさせ、暖かい空気を流し、どんなものも気分も軽くしてくれる。そんな季節がやってくる。その喜びに溢れた季節を感じられるのは、この寒さのお陰だ。この身に染み込むような冷たい季節が、より一層、春を感じさせてくれる。表裏一体とは、よく言ったものだ。何かが黒ければ、それは、何かの白さを際立たせてくれる。だから、どちらも極限まで、それを発揮することが、対のためにもなるのだ。
・・・では・・この身は、どうすれば、あれを際立たせてやれるのだろう・・・
 対となるものを、一際、感じさせてやるために、この身は、黒く、さながら漆黒の闇のようにするべきなのだろうか。それとも、あれから目を離すことができないほど、己が白く輝くことがよいのか、とても迷うところだ。どちらでもあり、どちらでもないものなら、どうすればよいのか、選択するのも難しい。
 唯一のもので、対でありながら、自分たちは、とても特異なものだと思う。何も交わるものなんてない。共通するものがないのだ。だが、どうしても忘れることも離れることも考えられなかった。時が、事情が、自分たちを阻みはしたが、結局、対は出会って、ひとつになった。どちらも程よく黒く、どちらも程よく白い。だから、極限に辿り着いてよいのか迷うのだ。
「踊ろうか? 」
 背後から声がした。白くて黒い対だ。
「・・お帰り・・・」
「ただいま。せっかく、人が急いで戻れば、あんたはもぬけの殻だ。いっそ、閉じ込めて飼ってやりたくなる。」
「なら、そうしろ。」
「無理に決まっている。あんたは、そんなことをしたら怒って、滅茶苦茶に暴れるからな。」
 背後から風と共に、対が追い越して、白梅の前に立つ。世界を相手に喧嘩する、北京の「猫」は、その時は黒い。だが、こうやって、自分の前で優雅に踊る時は、月世界から舞い降りたかのように白い。きれいな声で、朗々と、歌が紡がれて、それに見合う動きをする。どこまでも、優雅で、綺麗な姿だ。
「何を考えていた? 」
 歌は中断する。だが、舞は、そのままに、対が問う。
「哲学的なことだ。あんたには理解できない類のことさ。」
「はんっっ、僕は、哲学への造詣も深いぜ。話せよ。」
「春の暖かさと、冬の厳しさの、相互作用について。」
「・・・それは哲学ではなくて、農業のほうじゃないのか? 」
「いや、哲学だ。どうせ、あんたにはわからないさ。」
「あんた、また、悪い癖が出たな? 今度は、どこの男を傾けてきた? 」
「バカ、俺は、そんなことしていない。やってるのは、おまえのほうだ。」
「ふーん、僕はビジネスの上で、必要とあらば、その手も使う用意はしている。だが、あんたは無意識に人を魅了して、陥とすから性質が悪い。」
「おまえも陥とされたと言いたいのか? 」
「僕が? ははは・・・それこそ、バカバカしい。あんたと俺は、ひとつのものだ。僕が陥ちたというなら、あんたも、僕に陥ちたということさ。そうだろ? 一彰。」
 そこで動きは止まり、対はニカニカと笑って、手を差し出す。たぶん、自分は、今、黒いのだ。これが光り輝くように存在している。
「ただいま、一彰。なぜ、ここにいる? 」
「さあ、なぜだろう。」
「あんた、僕が帰らなければ、確実に凍死だぜ。こんな薄着で、よくいられるもんだ。」
「そうか? 」
「あんたは、僕の心臓を抱いている。あんたが死ぬと、僕の心臓も止まる。」
「・・・そんなことはないさ・・・」
「だから、僕は、あんたを保護するために戻ってきた。ナイスタイミングだった。」
「別に、そろそろ帰るつもりだった。」
「なら、なお、ラッキーだ。僕も帰って、暖かいベッドで眠りたい。」
「なら、ひとりで寝ればよかったのに。」
「へいっっ、本気で言ってるのか? ひとりじゃ寒いに決まってるだろう。あんたがいないと困るんだがな。・・・あ、そうか、あんた、置いてけぼり食らって拗ねてるんだな? 」
「俺はガキか? 」
「ガキなら、僕は楽なんだけどな。あんたは騙すのが難しい。・・・今夜のこと、ちゃんと話す。それでいいだろう? 」
「嘘八百並べるくせに。」
 いつだって肝心なことは言わない。対は、勝手に立ち振る舞って、自分を守っているらしい。だが、そのことを話すことはない。たまに、教えてくれることも、事実よりは、幾分加工されたものになっている。
「俺が邪魔になっているんじゃないのか? おまえ、ひとりなら簡単に逃げられるだろう。」
「やっぱり、あんた、誰かを靡かせてきたんだろ? それで、俺が邪魔になったのか? 」
「違う。」
「じゃあ、なんだ? 」
「なぜ、隠す? 」
「隠したいからさ。あんたに全部、知られるつもりはない。今までも、これからも、あんたは、あんたのままでいい。それを捻じ曲げてまで、僕は逃げるつもりはないんだ。」
「逃げなければ死ぬ。」
「くくくく・・・地獄で待ってる。あんたの争奪戦に勝利して、僕が、あんたを待っててやる。」
「おまえの心臓が、ここにあるなら、俺の心臓も、そこにあるんだぞ。」
「だが、あんただけは、僕より一秒でも長くもたせるさ。それで、あんたは、置いてけぼりを食らって拗ねて、僕に仕返しに来るだろう。向こうで、殴らせてやるよ、一彰。あんたの気が済むまで、僕を折檻していいぜ。」
 交わるものがないから、会話も堂々巡りする。だが、これは、何度も同じことを言う。それだけは、間違いようもなく真実で、しかも、最も白い部分だ。それと同じものを自分も持っている。たぶん、どちらもが同じものを持っているから、どちらにもなれないのだ。
・・・中途半端なら、それもいいのかもしれない・・・
「わかった。折檻フルコースで、やってやる。楽しんでくれ、リ・オウ。」
「心得た。とりあえず、帰らないか? 」
 やっぱり、同じことを考えている。一秒でも長く、これより生き残り、見送ってやるつもりだからだ。誰かに見送られることを望むこれが、それに安堵して逝けるように。
 対であることは間違いない。だが、きっと、自分たちは、相互に、どちらの黒も白も取り込んでいて、もう混ざり合ってしまっている。際出せてやることはできない。これだけが輝くことも、漆黒の闇に溶け込むこともない代わりに、ふたりで交互に、どちらも一緒に、黒にも白にもなれる。
「また、哲学か? 」
「おまえが極限まで輝くには、どうすればいいと思う? 」
「あんたが傍にいればいいのさ。簡単だ。現状維持がベスト。」
「なるほど、そういう理論なんだな。」
「あんたはどう考えた? 」
「俺が、限りなく闇に融ければいいと思った。」
「へいっっ、あんた、何をするつもりだ? その色香で、他の奴を誑かして、僕を殺させるつもりか? 」
「それもいいな。」
「・・・・この悪魔・・・」
作品名:我が手  黒白 作家名:篠義