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【C】 温かな温度

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―こんなの、困る。

 まるで、宝物を扱うように、そっと触れてくる大きな手。
 自分も彼も男なのに、掌の大きさや骨張った感触、なのにスラリと伸びた指先が自分のそれと比べても、全然違う。少しの嫉妬心と、羨望。そして、そんな彼の手に触れられているという羞恥心に、鼓動が激しくなる。


 (・・・恥ずかしい)


 こんなときは、決まっていつも彼の顔を見ることができない。自分の顔が朱く染まっている自覚があったし、なにより真正面から目が合ってしまったら、もうどうしていいか分からないから。
 そんな、まるで処女のような反応をする自分を、彼はどう思っているのか。

 聞きたいけど、聞けない。


 
 (・・・だって、答えを聞くのが怖いんだ)


 慣れたように触れてくる指先も、甘い言葉も。これまでに何人に同じように触れたのか、囁いたのか。そんな事を想像してしまう。相手なんてより取り見取りで選び放題のはずの彼が、何故、自分のような子供に、しかも同性に手を伸ばしてくるのか。


 
 (・・・あんたが何を考えているのか、全然分からない・・・・・・)


 なにも分からなくて、迷っている自分がいる。それでも、伸ばされた手は今も変わらず、左の頬に温かな感触を伝えていて。ずっと俯いたままの自分に、彼はなにを言うでもなく、無理に視線を合わそうともしない。

 

 ただ、そっと、静かに。
 髪に、額に、こめかみに、瞼に、形のいい唇が降りてくる。

 何度も、何度も。柔らかく触れてくる感触がくすぐったくて、ますます気恥ずかしくなって。体が微かに震え、ギュッと目をつむった。


 

 「     」


 
 耳元で、低く掠れた、けれど、どこか甘さを含む声で名前を呼ばれ、思わず目を開けて顔を上げた。そして、ようやく彼と視線が合って、その表情を見た途端に、なにも考えられなくなった。

 真っ白に染まった思考の向こうで、彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。

 


 唇が、そっと自分のそれと重なって。

 
 瞬間、歓喜に震える心と、戸惑いに揺れる心がどうしようもないほどに溢れだしてくる。

 嬉しい。
 苦しい。
 気持ちいい。
 辛い。

 ―心が、痛い。





 その温かな温度に、いつも。

 

 (・・・・・・泣きたくなる)

 


 そんな感情を知られたくなくて、彼の目から逃げるようにそっと目を閉じた。
作品名:【C】 温かな温度 作家名:猫田