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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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メリー

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裏切られても、裏切られても。
俺を待っていてくれ。
絶対に、俺だけはおまえを裏切りはしないから。
最後まで信じていてくれ。

それができるのは、多分世界で俺しかいないのだから。



恋の1,000,000$マン



百里風は駈けていた。林冲は全身から汗を吹き出している。今が全力だった。視界にはもう蠢く影が見えている。そこに突っ込んで行く敵の騎馬隊も。一撃目は、間に合わないと思った。
ただ、二撃目は絶対にさせないと思った。それを受けたら、あいつらは全滅してしまう。
肺が、千切れそうだった。血が逸る。目が血走ってくるのが自分で分かった。
気が逸るほど視界は狭く、明瞭になってくる。その目の前で、小柄な色の白い男が敵の騎馬隊の一騎に踏み潰されるのが見えた。
後は、何も考えられなかった。
殺すだけだった。
敵の騎馬隊に突っ込んで、反転する。振り返ったとき、いつもの無表情な色の薄い瞳がこちらを見つめていることに気が付いた。
生きている。
それで、いくらか平静に戻れた。
それでも、許し難い思いがあった。それを全て、敵の騎馬隊にぶつける。誰一人、生きて帰してやるつもりは無かった。
掃討が済んだ頃、林冲は百里を降りてその男の元へ行った。
「林冲」
「死んでなかったな」
「今度ばかりは、駄目だと思った。そいつが、私の代わりに」
色の薄い瞳が離れたところの地面に向けられた。その視線を追う。燃え盛るような、赤い髪。
「おまえがこいつの代わりに死んでしまえばよかったと、そう言いたいのか」
皮肉を言うと、薄い唇が歪められた。
「全く持って、その通りだ」
今は、皮肉を返す気も起きないらしい。両側から部下に支えられて立っている。どうやら最初の一撃で踏み潰されたとき、脚を踏まれたようだ。恐らく、骨が折れている。踏まれたのが腹でなくてよかった、と林冲は思った。
「おい、脚を出せ」
無表情な顔がちら、とこちらを向いて、大人しくその場に座り込んだ。右脚を伸ばしている。
「おい、おまえら。こいつを押さえつけろ」
「いらん」
「痛みで暴れられても迷惑だからな」
「いらんと言っている」
「命令だ」
言葉を無視して部下たちに命令する。騎馬隊の手の空いているものたちが数名出て来て、男の腕や脚を抑える。林冲が治療をする間、その男は眉一つ動かさなかった。
「自分が死んでしまえば良かったなどと、滅多なことは言うんじゃない」
膝を伸ばし添え木を当てながら、林冲は言った。
「そんなことをしたら、あいつは無念のうちに死ぬことになった」
「何が言いたい」
憂鬱そうな声が、返された。
「あいつはあれで本望だったと言っているんだ」
「貴様に、何がわかる」
「わかるさ」
きつく布で縛る。添え木がずれないようにするためだ。もちろん鬱血しないように気を付けている。
「もし」
言葉を続けようとして、飲み込んだ。
「なんだ」
「いや。何でもない」

もし、俺があいつだったら。
俺はおまえが死んだとき何をするかわからない。
敵を殺し尽くしたあと、無為と絶望の中で死んだだろう。

なんてこと、この皮肉屋の男に言う訳にはいかなかった。
「訳がわからないな」
「なんとでも言え」
添え木を縛り終わって、立ち上がった。男を押さえ込んでいた部下たちも離れる。色の白い小柄な男はまた自分の部下に支えられながら、自分の隊に戻って行った。

その日の野営で、その男は初めて自分の過去を語った。それは陰惨にして、あまりに残酷な過去だった。それでも、こいつに同情する訳にはいかない。する気もない。
同情したら、その過去を抱えて生きてきたこいつが救われない。
「俺は、何も聞かなかったよ」
無表情な色の薄い瞳が見上げてくる。その頬は焚き火に照らされていくらか色付いて見える。
「おまえは相変わらずいけすかない野郎だ」
そこに、騎馬隊の伝達兵が来た。馬麟は軽くこちらに頭を下げて、騎馬隊に向かって駆けていった。焚き火に焼べた薪が爆ぜる音だけが響く。
「林冲」
「なんだ」
「おまえは、同情しないのだな」
「なぜ、そんなことを訊く?」
「この過去を言ってしまえば、同情されると思っていた」
「同情して欲しかったのか?」
「いや」
生憎だったな、という言葉を言う前にその男は応えた。
「同情されるくらいなら、死ぬまで一人でこの闇を抱えていこうと思っていた」
やはり、この男と自分は似ていると思った。それでも、こいつと自分は相容れない。
「皮肉の一つも出んのか、おまえ」
「そうだな」
今ばかりは、それでもいい。
こいつは、ずっと気を張って生きてきた。そろそろ、疲れたっていい。
もう、いいんだ。
「今だけは、何を言っても構わない。俺は、何も聞かなかったことにするさ」
焚き火だけ見つめて、林冲は言った。男は、身じろぎもしない。
「いいのか、本当に」
「好きにしろ」
溜息を一つ吐いて、そいつは口を開いた。
「駆けることしか能が無い、粗雑で頭の悪い男だ、あいつは。馬と鎗と勢いだけで生きているおめでたい男だ。張り合いもない。下らない。あいつは痛風になって馬から落ちて死ぬのがお似合いだ」
本当に言いたいだけのことを言い始めた。しかも、林冲の悪口である。切れは悪いが、これだけ悪態が吐ければ十分だろう。
「だけど林冲」
不意に、言葉を切った。
それまで立て板に水の勢いで罵倒と皮肉を吐いていたそいつが不意に口を閉じたことでそいつを見やってしまった。
その男は、こちらを見ずに焚き火を見つめていた。

「おまえがいて良かった。ありがとう」

聞かなかったことに、した。
おまえはいつまでたってもいけすかない男だし、おれもいつまでたっても、おまえにとっていけすかない男だからだ。