二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

6/12日臨帝オンリー「君の幸せは俺の幸せ」新刊サンプル

INDEX|1ページ/1ページ|

 
僕の住んでいるアパートは狭いしボロいし古い建物で
お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。けれど住めば都。
僕だけの城だ。最低限の日常品とパソコンのある殺風景な部屋に
最近仲間入りを果たした物がある。それはパソコン机の左側の壁に立てかけてあり、
日本製のものではなくアメリカ産。そう、その正体は車のナンバープレートなのだ。
燻んだ白いプレートに紺色の文字ではっきりと記されている四文字の記号は視界に
入る度に口元が緩んでしまう。どうしてこのプレートがここにあるのか経緯を語り出すととても長い話しになってしまうのだけど。


──……あれは肌寒い夜だった。
風が強くて彼のトレードマークとも言える
黒いコートの裾が、はためいていた。寒いねってあの人が笑って、僕も釣られて笑った。


「別れよう」


全ての始まりはここからだったんじゃないかな。
─…僕達の関係を終わらせたあの日。
臨也さんと僕はお付き合いをしていた。
そう、あの外道で最低な情報屋と恋人同士。
周りに反対されたのは数知れず、臨也さんの数々の行いを振り返れば誰もがそう感じるだろう。それでも僕は幸せだった。あの人はあの人なりに僕を愛してくれた。あの折原臨也が僕の前では嬉しそうに、照れてはにかんで微笑むのだ。「帝人君の存在が俺の幸せ」なんて、歯の浮いたくさい台詞もさらりと言ってのけてしまう。
初めて恋をした。初めて人を愛おしいと感じた。
臨也さんが愛おしかった。…ずっと。
「……そう、ですか……わかりました」
貼り付けの笑顔には変わりない。けれどそれは悲しみを誤魔化すための
ものでもなかった。
「あれ、意外と平然としているんだね」
「ええ、まあ覚悟はしていましたから」
何故なら今の僕は不思議と何も感じていなかったのだ。
作り笑顔をしただけ。酷く、落ち着いている。愛している人に
別れ話を切り出されているというのに。
でも、今思い返すとあれは冷静な演技をしていただけだったんじゃないかな、って思う。
「女の子みたいに泣いてくれてもよかったんだけどな」
「流石にそれはないです。どれだけ女々しいんですか僕」
「だって君、俺を愛しているし」
甘ったるい声で何度も囁かれ口にした言葉。
「俺は勿論今でも帝人君を愛しているよ、ただ特別ではなくなっただけ」
目の前に立っている臨也さんはにっこりと、笑っていた。
僕は一度彼を視界から外し、きっちりと両足を揃えていた
自分のスニーカーを見つめた。強い風が吹いて思わず目を瞑ってしまう。
顔を上げれば臨也さんはまだ、僕を見ていた。変わらない笑顔のままで。
「恋人としての関係はこれで終わりだけど何か困った事が
あったら遠慮なく訪ねておいで。君になら格安で情報を提供するよ」
「元恋人の好みですか」
「可愛い後輩のためさ」
恋人から後輩へ降格、か。
「早速だけど部屋のカードキー返してくれる?
君の私物は処分するつもりだけど欲しいものがあれば取りにおいで」
淡々と彼は話し、目の前に右手を差し出された。
「…わかりました」
僕は臨也さんの目を見る事無く鞄からカードキーを出してその掌に乗せた。
大切にしていたゴールドのカードキー。いつでもおいでと手渡されたそれが
スペアではないキーだと知ったのはずっと後で。馬鹿ですか!と怒鳴ったっけ。
「あの、一応聞いてもいいですか?僕が振られる理由」
「んー…」
両手をポケットに突っ込んで臨也さんは空を見上げた。雲も星ひとつない都会の空を。
「Жаль, что я солгал. Я люблю тебя. Чем кто-либо.」
「え、え?」
早口で言われたそれは日本語ではなかった。英語でもない、
それを口にした臨也さんの顔は真剣で笑っていなくて、ドキリとした。
彼は僕を見ていた。熱い眼差しを向けられて目が逸らせずに、ただただ見つめ返した。
「まあ飽きちゃった、からかな」
さら、と平然に言われて、平然でいられるわけがない。
「…っ」
声が詰まる、胸を刺す痛みが走った。
「予想通りの言葉ですね」
出てきた声はとても、低かった。
「帝人君さ、こういう時ぐらい傷ついた顔してくれてもいいと思うんだけど」
「傷ついていますよ、ちゃんと。今にも泣きそうです」
「泣いていいよ、怒鳴ってくれてもいい。それほど俺は君に酷い事をしているんだから」
「嘘吐き!」
いらついて、尖った声になった。自分でもそれは感じていて、臨也さんも気が付いていた。
けれど彼は微笑んでいる。むかつくぐらいかっこいい笑顔で。
「臨也さん、僕は貴方が好きです。愛しています。…きっと、これからも…」
嫌だな、本当に泣きそうだ。
「…君は俺を引きとめてはくれないんだ」
「引きとめた所で貴方が今の話しをなかったことにはしないでしょう?」
冗談だって、笑い飛ばしてくれたらいいのに。
「さっすが、よくわかってる!」
「当然です」
泣いてやるもんか。絶対に。泣き顔は臨也さんに見せたくない。
一度涙が零れてしまえば止まらなくなる。そうしたら困らせる。
「……今日はもう帰ります」
「帰っちゃうの?送っていこうか」
「結構です。……それと僕が使用していた物はすべて処分してください」
あの家にあるのはお揃いのマグカップ、色違いの歯ブラシとかそんなものだけだ。
「わかった」
「…今まで、楽しかったです。ありがとうございました。それでは、失礼します」
「うん、ばいばーい」
軽い口調でひらひらと右手を上げて臨也さんは僕を見送った。
笑顔で。僕も同じ。笑ったまま彼に背を向けて一歩、一歩と歩きだした。
涙は、零れなかった。
それからどうやって家に帰ったのかよく覚えていない。
驚くほどあっさりとした別れだった。僕は真っ暗な部屋の中で
明かりもつけずにただぼんやりと立っていた。どれぐらい突っ立ったまま
だったのだろう。視界が滲みぱたり、ぱたりと涙は流れ落ちて。
畳にじわりじわりと跡を残していく。そこで初めて自分が泣いていた事に気が付いた。
胸に強烈な痛みが走り、涙は止まることなく流れ続ける。
ただただ寂しくて悲しくて、悲しくて。
「…っいざや…さ」
口に、出しただけで、とても苦しい。
苦しくて苦しくて叫びたい。しゃがみ込んで膝を抱えて、嗚咽が止まらない。
どうしてこんなことになったんだろう。
どうしてあっさり僕は頷いてしまったんだろう。
わかっていたじゃないか、始めから。
いつかはこうなるんじゃないかって。だから忘れていた。
いつの間にか心の奥底に閉じ込めていた。いつかあの人が離れて行ってしまうって。


現実は残酷だ。