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誘惑の果実

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驚きに身体を凍らせる桃子の前で、響はゆっくりと自分の右手を見詰めた。鮮やかな赤の線が手の甲に走る。温度の無い視線が桃子を舐めた。
「今は殺さないでいてやる――――花嫁を殺せば面倒なことになるからな」
茫然と目を見張る桃子の身体が傾ぎ、気が付けば天井を見上げていた。
冷酷な目が桃子を見下ろす。腕を一纏めに押さえつけられ、ままならない身体を捩る。剥き出しの足に床は冷たかった。
桃子は屈辱に顔を歪める。響の片手は確かに明らかな意図を持って桃子の身体に触れていた。ブラウス越しに乱暴に胸を掴まれる。労わりも欲望もなにも無い。ただ嗜虐だけだ。
押しやったはずの恐怖が再び沸き起こり、恐慌状態に陥る。
「やめて――助けて!!」
びくっと桃子は震えた。
思わず叫んだ言葉に自分で息を飲む。助けなど来るはずが無い。自分は何に助けを求めたのだろうか。庇護翼はもういない。自分が遠ざけた。友人なんてそんなものいない。
ふっと身体から力が抜けた。
突然静かになった女に響はつまらなさそうに鼻を鳴らした。如何に威勢が良くとも所詮はこんなものか、と鼻白むと桃子は以外にも力の籠もった目を響に向けた。
「粗悪品でも良いの?」
嘲笑に響は眉を顰めた。
「何やってるわけ? 貢君は? 鬼頭先輩は? 神無は? 出来損ないに構っている暇なんてないでしょ」
そこにあるのはただ響に抗うというそれだけだった。思い通りになどなってやるものかという単純で純粋な反抗。
響は初めて見るような気分で桃子を見た。保身を知らず安易に見を損なう女は無鉄砲で無防備だ。
「お前、誰だ?」
何を今更と醜い顔が尚歪む。そんな醜悪な姿も気にならなかった。警戒するように桃子が喉を鳴らした。
「土佐塚桃子よ」
躊躇いがちに紡がれたその名は容易に薄紅色を想起させる。耳底でぎしり、と梁が鳴った。
死よりも矜持が勝つ。その姿は一つの過去を思い起こさせた。

作品名:誘惑の果実 作家名:萱野