二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
龍吉@プロフご一読下さい
龍吉@プロフご一読下さい
novelistID. 27579
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

悲しみの果て

INDEX|1ページ/1ページ|

 



悲しみの果てに何があるのか、なんて。
私は知らない。
見たこともない。
ただおまえの顔が浮かんで消えるのだろう。



悲しみの果て




石秀が、死んだ。
楊志のいなくなった二竜山を守るために、一人門の外に踏みとどまって、討ち死にしたのだと聞いた。公孫勝は胸に、裂傷のような傷が生じた気がした。
追い出すべきでなかったとは、思わない。石秀を致死軍から追い出したのは、必然からの事態だった。彼に恨まれたとしても自分はそれを受け容れる覚悟はある。
しかし、それは彼が死んだことに対するこの悲痛と背反することではない。
あの、人なつっこい顔が、自分を見ることはもう二度とない。
「人並みに、落ち込んでいるのか」
背中に声が掛けられた。軽く肩越しに振り返る。林冲だった。
「今は、おまえの相手をする気分じゃない」
そう言って、視線を外す。
「そうだろうな」
「分かったら消えろ」
「だが断る」
公孫勝が眉間に皺を寄せて振り返ると、林冲は真っ直ぐに公孫勝から一歩もない所まで近付いていた。
「な」
林冲は、公孫勝の隣に腰を下ろした。
「強がらなくていい」
座った林冲が、公孫勝を見上げる。
「部下や同志が死んで、悲しんでいけない訳ではないだろう」
「致死軍に、心はあってはならないのだ。それを率いる私にはなおさらのこと」
「それは、任務の上でのことだろう」
聚義庁前の石段に腰掛ける林冲は、一の木戸の方に顔を向けている。
「泣いてやれよ、公孫勝」
林冲が、呟くように言った。
「それで、死を割り切れるのなら」
「生憎と、そんなことをしなくとも心のけじめはつけられる」
「知ってるか、公孫勝」
林冲が、こちらを見ずに言う。
「涙の後には、笑いがあるんだとさ」
「なんの迷信だ、それは」
「さあな。誰が言っていたか覚えていないが。悲しみの果ては素晴らしい日々を送っていけると言っていた」
「おまえの目に、私はそんなに落ち込んでいるように見えるか」
林冲は答えない。
いつか、この傷も癒えるのだろうか。
この傷も、あの傷も。
いつか、こいつに言えるのだろうか。
「素晴らしい日々か」
公孫勝は呟くように言った。
「下らないな」
興ざめした顔で、林冲がこちらを見上げる。
「そんなもの、私には必要ない」
自分の傷を忘れて生きるなんて、自分には出来ない。あの暗闇も、あの孤独も、あの罪も。
それに耐えて生きてきた過去の自分を忘れるなどできなかった。
「だが、そんなおまえの生き方で石秀は報われるのか?」
「死んだ者を忘れることは出来ない。死した同志の骸を全て背負って、私は泥沼に死んでいく。そう決めた。それが致死軍に誓った私の生き方だ」
「じゃあ、俺が死んだら泣いてくれよ」
公孫勝は思わず林冲の顔を見た。林冲の横顔は、皮肉っぽく笑っていた。
「そして俺のことをさっぱり忘れて、素晴らしい日々を生きてくれ」
致死軍ではないからな、と林冲は呟いた。
「ああ。それは素晴らしい日々だろうな」
「俺も、おまえが死んだら泣いてやるさ。一晩中でも、一日中でも。その後は、おまえの顔をたまに思い浮かべてやらんでもない」
「やめろ、気色悪い。貴様に思われるなど、虫酸が走る」
「元気が出たみたいで、なによりだ」
言われて、公孫勝は自分の口元にいつもの冷笑が浮かんでいることに気が付いた。
「まあ、生憎俺はお前より先には死なんがな」
言いながら林冲は腰を上げた。
「ただな、公孫勝」
立ち去り際、林冲が振り返りながら言う。
「俺は、泣いてお前の死を割り切っても、お前を忘れることはないと思う。忘れることと割り切ることは、違うのだ」
言うだけ言って、林冲は石段を降りて行った。
残された公孫勝は、一人、胸に火を燈された思いだった。