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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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ひまわりの揺れる日に、君と手を繋いで歩こう。

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白と水色のコントラスト。見上げた先は眩しいほど青く、透き通っている。

「…まぶし」
 真っ青な空の真ん中に輝く太陽は、直視できない。空を見上げるだけで頭の奥がくらくらする。
 そう広くはない庭先の一角で、ミニトマトが赤く色付いている。珍しく重なった休日の昼、言いつけられた通りに鈴なりの赤い実をボウルに摘み取っていく。
「今日、カレーにするとか言ってなかったっけ…」
 およそ、自分が今まで食べたことのあるカレーにはトマトは入っていなかったような気がする。首を傾げながらも、未だにろくに「料理」ができない自分にとって、それが当たり前の人の頭の中は分からないから、言われた通りに材料を集める事しか出来ない。
 ボウルいっぱいにトマトを収穫してから、隣にあるハーブがたくさん育っている花壇でバジルの葉を摘み、少し離れたところで別の野菜を収穫していた背の高い人影に終わったよ、と声をかけた。
 まったく憎たらしいほど陽の光が似合う人だ、と思った。陽の光に透けた金色の髪がきらきらと輝いて、小麦色の肌がまさしく夏の代名詞のようで。季節が何度巡ってきても、やっぱりこの人には夏が似合うな、と思う。そう長い時間を過ごしたわけではないけれど、きっといつまでもそう思うのだろう。
「…こら」
 ぼんやりと見ていたら、いつの間にか片手にボウルを抱えたその人は目の前に立っている。
「終わったらさっさと中入れ」
 目ェ回すぞ、と苦笑混じりに続けて。
「…大丈夫だよ」
 あの時から、どれくらいの時間が流れたと思っているのだろう。

 一人少ないだけで、小ぢんまりとした家はとても広く感じる。なんとなく寂しいような気がして、キッチンでランチの支度をする後姿をずっと見ていた。
 暑いのは苦手だ。けれど、クーラーもあまり好きじゃない。そんな我が儘を言ったら、リビングのフローリングにバケツを置いて氷水を張って、冷風扇を無言で回す。それでどうしろ、とも言わなかったから、手のひらをそうっと浸けて涼をとる。これが思いのほか気持ち良い。
 ここは地球だからな、とディアッカは苦笑する。
 プラントならいざ知らず、今暮らしているところは地球だから、当たり前のように気象をコントロールすることなんて出来ない。閉め切った室内では当然のように出来ることも、こうも窓という窓が全開では湿った暑い空気が僅かばかり空間を移動してゆくにとどまっている。
 その中に、ほんのりとスパイスの香りが混じった。
 相変わらず首にかけたタオルで汗を拭いながら実に楽しそうに鍋を掻き回している姿。
 不意に逸らした視線の先で、大輪のひまわりが陽射しを受けて風に揺れた。




















 日が暮れていく。

 夏の陽は長い。夕暮れ時と言っても充分に明るく、街頭も沈黙を守っている。
 ようやく厳しかった陽射しも弱まり、気持ち涼しい風が緩やかに吹き抜けていく通りを並んで歩いていた。伸びた影を追いかけるように、ゆっくりと。
 その少し先で、律儀に主を待つ犬が時々振り返り、振り返りつつ軽快に進んでいく。プライベートに戻った人々がそれぞれのんびりと歩いていく中、誰かに追い抜かれても気にならないゆっくりとした時間。
 車の入ることがないこの通りは日中買い物客で賑わい、夕方にはこうしてペットを連れたり、ゆっくりと散歩を楽しむ老人や、家路へと遊びながら駆けていく子供たちが多い。いつもならたくさん目にするはずのサラリーマンの姿が少ないのは、サマーバケーションの季節だからだろう。仕事柄、お互い縁の遠いものだったから、いつものように犬を連れて、けれど久し振りに二人で並んで歩く。
 ほんの少し、隣にいたキラが前に出た。何か気になるものでも見つけたのかと思うと、半分振り返って追い抜いた、と言って笑う。
「…背、高いんだもん」
 いつまでたっても追いつけないから、とキラは少し不貞腐れたように呟いて、その更に先を行く犬を追いかけて歩き出す。
「なんだそりゃ」
 軽く溜め息を吐いて、追いついた犬を撫でるキラを追いかける。

 立ち止まって暮れてゆくオレンジ色の太陽を見詰める横顔は、幸せそうに見えた。少なくとも、あの時の様に先が見えないわけではないし、自分が今幸せだと思うから隣にいる人にもそう感じていて欲しいものだ。
 希望かも知れないけれど、心のそこからそう願っている。
 隣に並んだ指先が、微かに触れた。夏だと言うのに、少し冷たい。
「…そろそろ、帰るか?」
 満足したのか遊びつかれたのか、いつの間にか走りまわっていた犬が横に座っている。黒い大きな瞳がじっと見上げていて、そうだねと頷いたキラがリードを繋ぐ間も緩やかに尻尾を振っている。
「もう、暗くなっちゃうし」
 行くよ、と声をかけると、おとなしく半歩後ろについて犬が歩き出す。
 夏の夕暮れを告げる蝉が鳴いている。薄紫色になった世界に歩く人は少ない。
 触れた指先をそっと握ると、キラは驚いたように顔を上げた。
「…暑くない?」
 暫く物言いたそうに視線を彷徨わせてから、ようやく小さな声でそう言った。
「ぜんぜん」
 一回り小さな手のひら。
 ここに、あるもの。

 薄紫色の世界で、手を繋いで。
 言葉なんて、要らない。